魔法の呪文じゃありません。どっかで聞いたの、マサマティカ。
意味は「数学」、どうやら造語。
Mathematics[すうがく]と同じようで、何かがどっかちょっと違う。
二挺の銃と彼一人。
二つがその手に握られたなら、たちまち一つの生き物となる。
2+1=1
彼の前に不審人物が3人。
やつらが取り出すただのマカロフ。今じゃ平凡、どこにでもある銃。
パパンと音が鳴ったなら、立っているのは一人だけ。
1+3=1
気の利かない出迎えたちを軽ーくやっつけちゃって、ゴメンナサイ。
あの三人にだってそれそれ人生があっただろうに、脇役にすらならない。
ヤラレ役は辛いよね。
だけど必要、主人公を示すため。
小道具並の扱いに終わる彼らの来世に幸アレ。
暗い小道をてくてく歩き大きな通りに出たならば、別の誰かがお出迎え。
「乗りたまえ」って黒塗りのゴージャスな外車。
乗っちゃいますか?
乗りましょう。
罠だ、どーせ。それでもかまわない。むしろ上等。
開いたドアに近づいて、かがみこんだらサヨウナラ。
乗り込むふりして全力ジャンプ。
ルーフを駆け抜け飛び出す車道。
けたたましいクラクションに送られて、少年は姿を消した。
歯噛みして見送る敵役。車内には、極上の罠。
銃に注射器、薬だって睡眠薬、麻酔、毒薬なんでもかんでも揃い踏み。
どんなに工夫を凝らしても、彼には決してかなわない。
しょうがないんだ、この場合。常識が通じるわけないじゃない。
だって彼は主人公。
負けちゃあ話が終わってしまうよ、最終回はまだまだ遠い。
こうこうと街灯が照らしても光の円から一歩出たなら、まっくら暗い深夜の歩道。
ビュンビュン飛んでく車道のライト、空には真っ赤なお月様。
犬の遠吠え、誰かの気配。
そして、彼は、今日も行く。
銃身からはじける銃声、一度に一つ。
銃口から飛び出す弾丸、同時に二つ。
音の数が弾の数とは限らないからご用心。
1=2
立て続けに撃つのも大好き。二挺の銃から飛んだ弾丸、全部で12発。
いくら撃っても二挺の銃は変わらない。
2−12=2
12発の弾丸の先。
立ちはだかるのは9人の相手と3台の監視カメラ。後には何も残らない。
12+(9+3)=0
1+1が2にならない、彼専用の数学論理。
ちょっとおかしな数式だけれど、ここではこれが正解なのだ。
同じ式でも答えが変わる変幻自在の計算術。
Mathematicsじゃ収まりません。
だから今夜は一味変えて、必修科目はMa・tha・ma・ti・ca。
前書 EXIT TOP