A spell of a promise
老人が一人の若者を連れて現れたときには、すでに四人の参加者が待っていた。
いずれも二度・三度目の参加となる、腕に覚えのある強者たち。
初参加の軽薄そうな若者は、笑って自己紹介を始めた。
それをさえぎる一閃の光。
ナイフだ。
思わず息を呑んだ若者に、参加者の一人がナイフを手渡した。
「借りるといい。」
老人が言った。
ふところから紙を取り出し、若者の前に掲げる。
「契約だ、ここに、判を。」
若者がいぶかしげな表情を見せる。
おそらく、判とナイフの結びつきがわからないのだろう。
老人は無言で、他の四人の契約書を取り出した。
紙の下段に、朱色の指紋。
血判だった。
若者はあきれた表情で自らの指を浅く切り、血の印をつけた。
老人が言う。
「いいか、忘れるなよ。この契約は絶対だ。取り消しはありえない。」
若者がナイフを閃かせて答える。
「あぁ、忘れねーよ。」
これだから年寄りは、とでも言いたげな苦笑い。
血判なんて古臭いことをしてくれる。
大体、そんなことをしたところで何の保証になるというのか。
きっとこんなことでも考えたのだろう。この若者は、まだ詳しい内容を知らない。
「五人目、か……」
老人が眉を寄せる。
今日来るはずである六人目の男は、まだ来ていない。
ゲームは六人の参加者がそろった時に始まる慣わしだ。
6は昔から悪魔につながる数とされているからだという。
指を傷つけ、血で指紋印を押す。
これも、悪魔との血の契約を真似ているらしい。
まともな刺激に飽いた大金持ちや、馬鹿な狂人どもの考えそうなことだ。
ちょうど、このゲームを思いついた者たちのような連中が。
風が吹き抜けていった。
刑事ドラマにでも出てきそうな廃工場の中、老人と五人の参加者が入り口を見る。
午後の薄い光を差し込ませ、鮮やかな青いマフラーの人影が滑り込んだ。
入ってきた『男』は、まだ少年の年頃だ。
若い若い挑戦者。
老人にも見覚えはない、新参の顔だった。
五人の参加者は、それぞれの反応を示す。
安堵の息を吐く者、嘲笑を浮かべる者、いっそうの緊張を走らせる者。
少年もまた、指で血の印を押し付けた。
老人が言った。
「それでは、『賭け』の品をここに。」
最初の四人と、六人目の少年が動いた。
それぞれが持ち寄った『賭け』の品が老人の前に出される。
五人目の若者は意表をつかれたように目を見開いた。
老人の持つ銀の盆に、金銀財宝、装飾品や小切手が積まれていく。
腕自慢の者たちにとっては、この瞬間こそが己の凄さを見せつける最高のときだ。
高価な物、珍しい物を出した者ほど、賞賛と殺意の視線を浴びることとなる。
今回、特に目を引いたのは、フルアーマー装備に身を固めた大男の品々だ。
美しい宝石をちりばめた、一目で最高級とわかるアクセサリー類の山である。
もう一つ、違った意味で目を引いたのは六人目の少年が出した品だった。
たった一枚のCD−ROM。
どんな価値があるのか、好奇心をくすぐる一品だ。
ついで、ルールが説明される。
みるみる、五人目の若者が顔色を失っていった。
彼は、ここにきて初めて事の重大さを知ったのだ。
おそらく、借金のカタか何かに、黙って連れて来られたクチだろう。
何せこのゲームでは、参加するだけで百万円が渡されるのだ。
六人だから、参加賞だけでも一回につき六百万円のゲームなのである。
その内容といえば。
なんのことはない。
生き残った者が勝利者、という単純なものだ。
とにかく殺せ。
ただそれだけのちょっとしたゲーム。
六人で参加して、勝利者は一人。何かの映画に似ていないでもない。
基本の優勝賞金は、たかだか一千万円である。命の値段には安い。
だからこそ、多くの参加者はむしろ副賞、『賭け』の方を目的とする。
参加者たちが、お互い持ってきた莫大な現金、美術品、宝石、貴金属のインゴット。
その他、さまざまな価値あるものを、たった一人の勝利者が受け取れるのである。
チップは己の命という、実に酔狂なゲーム。
すでにそれを知る四人と、知っていたらしい六人目の少年は静かに時を待っている。
恐怖に引きつる五人目の若者を尻目に、老人は右手を上げた。
「これより六分と六十六秒後、すなわち七分六秒後より武力の行使を認める。」
すばやく散る者もいる、たたずむ者も。無論、逃げようとして転ぶ者もいた。
七分などあっという間だ。
始めの合図は真っ赤な警告灯。
廃工場の天井に仕掛けられたそれが、突然これでもかと光りながら回りだす。
やがて一発の爆音が、ゲーム開始を高らかに宣言した。
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