A spell of a promise

※ caution!! ※
 この先には、暴力表現・残虐表現が含まれています。
 血や大怪我が苦手な方はご注意を!
 また、暴力表現のため、R−15指定になります。
 身体か心の年齢が十五歳以下の方は見ちゃダメ。

「ぎゃっ!」
最初の爆音の犠牲者は、あの五人目の若者だった。
哀れな若者は逃げ道を求め、出入り口に向かう途中でトラップを踏んだのだ。
「がっ、がっ、ひぃぃぃ……っ」
必死で這いずる若者の、上半身。
誰が張った罠か、よほど質のよいものだったのだろう。
若者の下半身は、ぐちゃぐちゃに砕け、吹き飛んでいた。
「……。」
「……。」
「…………。」
いくつかの気配。
「ククク…さすがジェノサイド。よぉくわかっている…。」
つぶやく声が闇から湧いた。
動いたのは、ひょろりとした、不健康そうな男だ。
黒いスーツに古ぼけた帽子姿で、アニメにでも出てきそうなガンマンである。
「フフ、弱い者から消していく。敵は少ないに限る、てわけか。
 さすがは過去最多出場記録だ、ミスター、ジェノサイド。」
ぺらぺらとよくしゃべる男だ。
這いずる若者の方へ歩み寄り、爆発地点にかがみ込む。
ジェノサイド、とは、出場者の誰かの呼び名らしい。
「フンフン…今のは対人地雷だな。旧式だが威力のあるやつだ……。」
何年に作られたものでどこの国の何社製、などと、誰に言うでもなく解説している。
当然、返事はどこからもないが、男は得意げに語り続けていた。
その声が聞こえたわけでもないだろうが。
はるか遠く、積み上げられたコンテナの上で伏せる影がつぶやいた。
「……オタクの人?」
ぼそっと漏らすのは、六人目の少年だ。
「マニアック、と言ってやれ。」
その背後、間近から。
突然の声。
跳躍。
タイミングは声とほぼ同時。腹ばいの姿勢からよくもと思うほど、鮮やかに飛び上がる。
長目のマフラーがはずれ、宙を舞った。
鮮やかな青。
ほんの一瞬だけ目を奪われたのは、それがあまりに場違いな色彩だったからだろうか。
背後に迫っていた声の主は、まんまと少年に逃げられてしまった。
少年の姿はかき消えた。上にも下にも見当たらない。
声の主はポンプアクション式の散弾銃を持ち直し、じっと身構えた。
フルアーマー装備の男だ。
数分間。
目標を切り替えたのか、男はさっと立ち上がった。
この男の通称は『ジェノサイド』。
このゲームにおいて、過去三回という最多出場記録の保持者である。
三回出場の記録保持者は他にも一人いたが、かの人はもうこの世にない。
今回生き残れば、前人未到の四回目。単独トップに躍り出ることになる。
その男が、ありえない不覚を取った。
子ども相手だと侮りの気持ちがあったわけでもあるまい。
完全殺戮と呼ばれた男らしからぬミスである。
その頃。
先ほどの場所から最も離れた角に位置するところに、ひらりと人影が降り立った。
あの少年である。
マフラーを落としたのが不満なのか、首のあたりをさすって不機嫌な表情だ。
まぶしい光が弾けた。
さっき少年自身がいた辺り。
閃光の正体は?と探る間もなく、ジェノサイドが走り出てきた。
右目を押さえ、険しい顔である。どうやら閃光は彼が放ったものではなさそうだ。
後を追うように、けたたましい笑い声が響いた。
女のような高い声だが、コンテナ群の上から姿を見せたのはどう見ても男だ。
ボサボサの長髪を一つにしばり、口紅を塗りたくった男、である。
「あなたに逢いたかったのよぉ〜、ミスタージェノサ〜イド♪」
べろり、手に持った四角い刃物をなめ上げる。大振りの中華包丁のような武器だ。
「……キモ。」
少年は、思わず、といった風にぼやいた。
と、何かを感じたように、少年が身をひるがえす。
次の瞬間、少年がいた場所に細い矢の雨が突き刺さった。
先端が妙にぬれていて、いかにも薬を仕込みました、といった風情。
ボウガンのようなものを構えた敵は、さびついた機械の影にいた。
こちらは、女である。
ただし、非常に筋肉質な。
女性とは思えないほど隆々たる肉体で、彼女は少年を追う。
舌打ち。
面倒くさそうに、少年が何かを蹴り上げた。
大人の指くらいの太さの線である。
女が別の機械ごしにボウガンを構える。
きらり。
少年の手にナイフが光った。
契約のとき指を切るために使った小さなナイフだ。
ばちっ。
少年が拾い上げたのは電気のコード。
ばちっとはナイフで切断したときに、切り口が散らした火花の音。
ナイフの柄は硬質なゴム製だった。
女が矢を放つ。
ひらりと身をかわし、少年は笑った。
女が、余裕の表情で機械から身を離す。
彼女が身を預けていた機械は金属製だ。
さびだらけの表面が今、実際に電気を通すかは怪しい。というか、まず通るまい。
それでも用心するのは当然のことだが、それだけで安心しては甘かった。
また逃げ出そうとする少年を追い、女が一・二歩踏み出す。
びちゃと足元の音を聞き、女は初めて顔をこわばらせた。
少年がコードを地に落とす。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
すさまじい叫びを上げて、女がのけぞった。
バリバリと高圧の電流が爆ぜる音が響く。
感電の原因は細く流れていた汚水だ。女の靴底が絶縁体でなかったのも大きい。
倒れた後も何度かたくましい体を弾けさせ、女だった物は静かになった。
気づけば、少年はすでにいない。
コードを落とした後すぐ、どこかに身を隠してしまったようだ。


女の絶叫を耳にしながら、ジェノサイドと刃物使いは駆け引きを続けていた。
とにかく重装備なのはジェノサイド。
しかし、刃物使いも不気味さでは引けは取らない。
外見云々のことではない。
四角い刃物の他に、いくつも得物があるようなのだ。
刃物が中心のようで、先ほどからごく細いナイフ状のものを投擲してくる。
その狙いがまた、正確無比だ。
重装備の隙間となりうる関節だけを狙ってくる。
ジェノサイドは、銃器を小型のグレネードランチャーに持ち替えた。
一気に片をつけてしまうつもりなのか。
物陰から一気に躍り出、相手の攻撃を誘う。
静寂。
刃物使いとて、過去に一度このゲームを勝ち抜いたつわものだ。
そう簡単に居場所を知らせる攻撃はしてこない。
緊迫した空気が場を支配したとき、右側のコンテナの陰から声が聞こえてきた。
「ボウヤみたいな子がこのワタシと戦(ヤ)る?無理無理無理、絶〜っ対無理ね!」
刃物使いの声音にかすかに怒りがこもるのは、気のせいだろうか。
「邪魔よ、クソガキ!大人のデートを邪魔しないで頂戴!」
デートではない。
はっ、という短い気合の後、刃物が何かにあたったような鋭い金属音が響いた。
どうやら、少年が攻撃をかわしたらしい。
「ねぇ……ジェノサ〜イド。ちょっとだけ待っててね?」
待ちたくない。
声と物音は、激しく、緩やかに変化をつけつつ徐々に場所を移した。
コンテナから壁際の階段を経て、上方にある足場へとたどり着く。
冷徹な無表情を崩すことなく、ジェノサイドの眼が足場をにらんだ。
鷹のような、その視線の先で。
ひらりひらりと舞うように、少年のコートのすそが足場から垣間見えた。
ジェノサイドが無言で銃を構える。
弾数は一発、40mm榴弾は二人を吹き飛ばすだろうか。
とん。
軽い音を立てて、少年が足場の周囲を囲う手すりに飛び乗った。
無防備な全身がさらされる。
それにかぶさるように、少年の向こうから刃物使いの姿が見えた。
轟。
二人ともひらりと身をかわし、床へと降り立つ……かに見えた。
「!!!」
足場の上に息を呑む人影が一つ。
必死の形相で足を引っ張るしぐさ。次の瞬間、飛んでくる弾を見つめ立ち尽くした。
ほんの一瞬の出来事。焼けた匂いと血肉を飛ばしたのは刃物使いの方だ。
少年は身軽にも床に着地した。
ゆうに3メートル以上はある高さからだが、別段、ダメージもないらしい。
対峙する。
どこにでもいそうな少年と、戦場以外には不似合いな重装備の男が。
「手錠か?」
「足にね。」
先に口を開いたのはジェノサイド。
左手に小型の自動拳銃を握り、右手を添える。
少年の手には何も持たれていないが、まさか手ぶらで来たわけでもあるまい。
おそらく、どこかに武器を隠し持っているのだろう。
先ほど会話に出た手錠も、隠し持っていたものだろうか。
「……持ってきたのか?」
ジェノサイドの問い。
少年は一瞬何のことかわからないといった表情を見せたが、
すぐにそれが手錠のことを指すと気づいた。
「いや、さっきのマニアックな人にもらった。」
ジェノサイドが、床に向けていた銃口をあげた。
レーザーサイト照準装置の赤い光が、少年の額を狙う。
完璧にとらえる寸前。
少年が走る。
追いかける赤い光。
少年はそのまま物陰に走りこみ、身を隠した。
銃を構えたジェノサイドが、視線をそらさずに周囲の気配を探る。
かすかな呼気。
「何で撃たないのさ。」
少年の声。
「……。」
辺りの気配を探る。
少年は後回しだ。
先に見つけねばならないものがある。少年自体は、おそらく、最後の敵だ。
そう、ジェノサイドの勘が告げている。
ちょうど、ジェノサイドの足元に、上半身だけで這いずっていた若者が倒れていた。
うめき声も上げない。息絶えたか、気を失ったか。
銃を向ける。
頭に、ガインッガインッ、と二発。
頭部の半分が吹っ飛び、再び静かになる。
「無駄弾使わない方がよくない!?」
いつの間に離れたか、ずいぶん遠くから少年が叫んでいる。
「Kid、おしゃべりはよせ。」
油断なく銃を構え、ジェノサイドも叫ぶ。
言葉に、わずかななまりがあった。
ジェノサイドと呼ばれるこの男、防護マスクのせいで顔は見えないが、
もしかすると外国人かもしれない。
「『きっ』って何?」
少年が言う。
キッド、という単語が聞き取れなかったらしい。
「キッド。『若いの』だ。」
「……。」
ジェノサイドの答え。黙る少年。
しばしの沈黙。
「ヘイ、キッド?」
返事はない。
「あれなら、俺の手錠だ。」
答えは別のところから返ってきた。
マニアックに解説していた、あの男だろう。声は天井の方から降ってくる。
「さっきすれ違いざまにスラれた。不覚だが、攻撃はしてない、お互いに。
 まあ、その必要がない状況だったからな……。」
三者それぞれ、姿を見せない会話が続く。
「しかしミスタージェノサイドは無口だと聞いてたが、そうでもないなぁ。」
甲高い、耳障りな声。
マニアックな男の声は、建物の中央あたりから聞こえてきた。
天井には、むき出しの鉄骨でできた梁が何本も渡されている。
おそらく男は、痩せぎすの体を鉄骨のどれかに潜め、チャンスを狙っているのだろう。

「一個教えてあげよーかーぁ?」

なぜか得意げな口調で語りかける男に向けて、今度は少年が投げかける。
天井にはり渡された鉄骨の上で、隠れていた男がひくっと顔を引きつらせた。
その真下では。
ジェノサイドが無表情のまま、ひらけた床の中央へ進み出ていく。
圧倒的な重装備から来る自信からか、あまり身を隠そうとしないのは彼だけだ。
「ジェノサイドことジャック・ジェミスター元大佐。
 傭兵としてのキャリアも長い。戦場を求めるあまり、裏社会に足を踏み入れる。」
少年のよく通る声が響く。
移動しながら話しているが、声のせいで居場所は丸わかりである。
「息子がいたんだよ、当時の年齢でオレと一つ違いの。」
ジェノサイドは歩きながら、音を立てて装備を外していった。
素早く。
ボディーアーマーだけ残し、大仰な防具・武器はすべて落とす。
「だから俺のこと撃ちにくいんじゃない? おしゃべりなのも、きっと懐かしいんでしょ、」
声の先へ。
銃を構え、一気に走る。
「……うっかり殺しちゃった息子が。」
「……。」
少年はいなかった。
物陰に走りこんだジェノサイドの首筋に、後ろから冷たいものが当たる。
「おしゃべりは終わりだ、ジェミスター元大佐。」
むき出しの首につめたい銃身。
少年の手にぴったり収まるサイズの、小さな銃だった。
「俺は無口だったはずなんだがな……」
「結構しゃべってるじゃん。」
「……」
ジェノサイドこと、ジェミスターは声もなく笑った。
「おしゃべりついでだ……二挺の銃は同時に撃てる。小型なら、なおさらだ。」
少年が複雑な表情になる。
ジェミスターは一度も振り向いていない。
首筋に押し当てられた銃は一挺だけ。
確かに、少年は同じ銃を二挺持っていた。
だが、片方は予備のつもりでポケットに入れたままだ。
なぜ気づかれたのだろう?
「抜け。」
言葉と同時に。
ジェミスターが今までホルスターに収めていた銃を抜く。
二挺を両手に持ったのだ。
まるで、お手本のように。
思わず素直に従ってしまったあたり、まだまだこの少年は青二才と言えよう。
「戦場では臆病者が生き残る。戦い慣れた臆病者ほど、強い者はない。」
流暢な米国英語。
振り向きざま、ジェミスターが二挺の銃を少年の胸に押し当てる。
マスクを外した顔は、はっきりと欧米人の特徴を示していた。
「へぇ、あんた臆病なんだ。」
ジェミスターの表情によぎる、軽い驚き。
そして、笑み。
少年が返した言葉は、見事なスラング交じりの英国発音だった。
ジェミスターが言う。
「そうだ。だから生き残った。」
「勉強になるね。」
少年が応えた。
「いい子だ。」
グッドボーイ、つぶやくように言ったジェミスターに、少年が不満を告げる。
「ボーイってのは好きじゃない。キッドの方が気に入ったよ。」
顔を見合い、笑う。
二人は同時に引き金を引いた。
その瞬間まで、二人は互いに微笑み合っていた。まるで仲のよい親子のように。
そして。
少年が後ろの壁にたたきつけられた。
ジェミスターも弾には当たったようだが、よろめいただけだ。
何せ銃の口径がまるで違う。当然、威力も違うのだろう。
体をずり落として座り込む少年の傍らで、ジェミスターは静かにたたずんでいた。

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