A spell of a promise
※ caution!! ※
この先には、暴力表現・残虐表現が含まれています。
血や大怪我が苦手な方はご注意を!
また、暴力表現のため、R−15指定になります。
身体か心の年齢が十五歳以下の方は見ちゃダメ。 |
ゆっくりと、落ち着いた歩調で地上を行く。
少年の手には、足場に落ちていたジェミスターの銃が握られていた。
スイッチに歩み寄り、うなり続ける圧搾機を止める。
静寂が辺りを包んだ。
その足元を何かがうごめいている。
少年は表情のない顔で下を見やった。
マニアックな男だ。
必死の形相で這いずっている。
男がすぐ近くに来るまで、少年は黙って観察していた。
「あんた生きてたのか。」
いかにもつまらなそうに吐く。
やっと表情を取り戻した少年に、マニアックな男はニタリと笑いかけた。
「気がつかなかっただろう?ク、ク、クク……、格が違うんだよ……。」
やっと聞き取れるような、血まみれの声。
かすれ過ぎて、吐息みたいだと少年は思った。
なおも手を伸ばし、這い寄る男。
苦しそうなのは出血のせいか、蹴られた衝撃で背骨でも折ったのか。
もはやどう見ても瀕死の男は、死人の顔色で少年の足をつかんだ。
「お、お前の、銃は、小さいだけが……とりえ…だ…。威力がない……」
さすがマニアックなガンマン、瀕死のくせによくやる。
威力のなさを指摘し、ずるりとキッドに這い寄る。
「だから」
呆れ顔で見つめるキッドの前で、男は切れ切れに言葉を続ける。
「お前は」
手に銃。マグナムだ。
とてもではないが、瀕死の腕で支えきれる反動ではない。撃つことはできまい。
それでも、男は体を引きずる。
蒼白な顔で、全身をべったりと血で染めて。
「勝て…ない! 俺が死ぬ、前に、お前も、死ぬんだ…。」
ぎらぎらと目だけを輝かせる男の顔には、すでに死相の色が濃い。
そして、男が笑いの形に顔をゆがめたとき、幕引きは訪れた。
残酷な一言とともに。
「じゃ、これは?」
「……え゛?」
『これ』 ―― 微笑むキッドの手に、ジェミスターの銃。
厚手のボディアーマーも貫く威力の拳銃、その名はファイブセブン。
マニアックな男の目から、極限まで光が消え失せる。
全ての希望を失った男。
絶望すら、感じているかどうか。
ガァンッ。
どこか遠い響きで銃声が鳴る。
ジェミスターが残した銃を構え、慣れない反動に耐えた結果は。
弾痕が一つ。
見事、額の真ん中を直撃していた。
マニアックだった男が命の残り滓を失い、硝煙の香りが消えたとき。
再び、頭上にすえつけられた警告灯が赤く回転し始めた。
ゲーム終了。
やがて開始のときと同じく、例の老人が現れる。
手には銀の盆を持っていた。
乱雑に乗せられた賭けの品は、一つのこじんまりした紙包みに収まっている。
老人は、少年へ捧げるように、盆を差し出した。
だが。
少年は包みを手に取ると、バリバリと破き始めた。
すっかり整理されていた中身がばらばらにこぼれる。
迷惑そうな老人の前で、少年が急に目を輝かせた。
財宝も小切手も払い落とす勢いで、小さい物をぱっとつまみあげる。
紅い宝物。
ジェミスターが賭けたはずのそれは、少年の手の中で誇らしげに光った。
「じゃ♪」
ごくごく短い挨拶一つ。
あっけにとられている老人を尻目に、少年はさっさと歩き出す。
と、少年が突然立ち止まった。
ふと触れた自分の指先に、いつもと違う感触があったからだ。
ざらりとした線状の痕。
契約のときに切った傷だった。
傷痕を見つめ、少年は眉をしかめた。
かわいいあの娘は、少年が怪我をしてくることを嫌う。
もし次に会うまでに消えなかったら、彼女はきっとこの痕を見つけるだろう。
また、もう怪我しないように気をつけます、と約束させられるのだろうか。
人前で指きりの歌は恥ずかしいな、二人っきりのときなら別にいいんだけど。
そんなことを考えながら再び歩き出す少年に、先ほどの老人があわてて駆け寄る。
半ば無理やり渡された賞金と賭けの品々を手に、少年は廃工場を出た。
指きりげんまん、約束どおり。
彼が彼女にあげたい品は、奇しくも彼女の小指にぴったりのサイズだった。
それは紅い指輪。
某国の美術館が大規模な戦争のさなかに紛失したまま、未だ見つからない、
昔々、美しいロイヤルプリンセスの誕生を祝ってデザインされたという、
この世に一つしかない品だ。
外は曇り空。
一雨来そうな空模様に、傘が欲しいなあとつぶやく。
ゲームの名残は道端に捨てて、少年のポケットはすっかり身軽になっていた。
主な中身は、もともとの得物である小さな二挺の銃だ。
そして。
ポケットの奥できらり、真っ赤な真っ赤なルビーのプチリング。
Fin.
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