First snow of the season

君は小癪で生意気な疫病神だな。

だそうだ。
ずいぶんな言われようだが、まあ、いたしかたない。
ファーストコンタクトは終了。
思ったとおり、乗り気ではないものの、きっぱり断る空気ではなかった。
言うなれば、迷いが見える。
祖国と、小癪で生意気な疫病神。
両者の力くらべしだいで、どちら側にでも転ぶ状態。
さて、あとはどうやってかの作家先生をこちら側につけるかだ。
作家と強引に口約束を取りつけ、最後の仕上げにかかることにした。
まずは某国家様あてに、慇懃無礼な伝言を送る。
『暴きますよ』と。
ゲーム開始。
刺激的な仕事のお時間。本気を出すのはこれからだ。
自分のプランはすぐ決まる。
いつも即決、即実行。
これでハズレがないんだから、まったくもって運が強い。
さもなくば、よほど優れた天性の才。
な〜んてね、と舌を出すけれど半分以上は本気なのはお約束。
今回の策も、本筋はすぐに決まった。
何人か片づけて、威嚇をすればいい。
やり方で腕を示し、ターゲットで情報力を示す。
とびっきりの先制弾を一発。
向こうもおいそれとは動けなくなるようなやつを。
さっさと着替えて、早くも出かける準備。
今日はお気に入りの黒いパンツの後ろに青い携帯電話をさしこみ、黒い上着をはおる。
きゅっとしまったラインが、一個の影のよう。
上着の両ポケットには、一挺ずつの手のひら相棒、『ブローニング・ベビー』。
(車に乗っているときを狙ってやろう。)
パソコンを立ち上げて、何かを眺める。
(パッと見た感じ、よくある交通事故みたいに。)
非公式な訪問の中とはいえ、他国の要人が怪我をし、運転手その他が死亡するのだ。
穏便にすませたいと思うなら、「運転手に責任あり」の「交通事故」が最もいい。
きっと、うちの国のおえらいさまたちは、うまいこと隠そうとするだろう。
事故か何かにかこつけるだろうか。
裏はともかく、公式には発表しない、いや、できないに違いない。
他国の要人の周囲を守るものたちが、要人ご本人を残して全滅させられたなどと。
「させられた」、などと。
そんなこと、公に発表するほど、この国もバカではない。

たとえば。
弾丸が喉仏の下、骨と骨の隙間の柔らかな皮膚を突き破るイメージ。
息飲むような音を立てて、運転手が喉を鳴らすイメージ。
イメージの中、フロントガラスを飾っているのは放射状の亀裂。
右手から一発の弾丸が放たれ、たった一つ走った亀裂の中心を狙う。
針の先ほどの目標めがけ飛んでいく小さな弾は、意志を持つ金属の甲虫。
あるいは金属でできた、意志そのものだ。
それが、亀裂の中心と重なる。
食い込む弾丸。横からの断面図的な映像。スローモーション。
あくまでイメージ。頭の中の絵の世界。
「ばっきゅーんっ。」
笑顔で言った宣告のフレーズ。
聞きなれた空気の震えとともに、弾丸がイメージの絵を散らす。
木っ端みじんに。
現実に戻って、パソコンの画面には立体的な車の画像。
実際問題、車の窓は、フロントも横も防弾ガラスのはずだ。
自分の豆鉄砲ではとてもとても突き破れるものではない。
ならばもろい場所を探すか、もっと思いもかけない面白いやり方を考えるしかない。
たとえば、車の内側を撃ってしまったら?
小さな弾丸でも、挟まったら命取りになるところはないのかな?
画面の中の自動車をくるくる回し、上から下からのぞき込む。
タイヤを狙うのはどうか、安易過ぎ?
人が乗り込む瞬間の想定。
扉が開くときの幅、時間、全てを計算して。
超・超・超シビアな目標物になるけどかえって燃えるじゃないですか。
やがて何かを考えついて、身のこなしも軽やかにイスを蹴る。
そのとき一片の白が風に運ばれ、くるり舞い踊った。窓の外で。
ふと。
普段は気にも止めないような視界の端に、白い蝶の姿を見たような気がして。
部屋を出る寸前、壁一面をしめるベランダの窓を振り返る。
ちらり、ちらちら。白く舞うもの。まだ、少しだけだけれど。
「あ、初雪…。」
人生楽しく主義の少年を立ち止まらせるには、十分な理由だ。
六角形の氷の華に向け、親指と人差し指で銃の形を作った。
片目をつぶって。

「ばぁんっ」

ちょうどよく、不意に吹いた風がふわりとした雪の粒をくずした。
窓の外。木っ端みじんに輝く氷の粉が、夕焼けの中に飛び散る。
くるりと身をひるがえし、部屋を出ていく噂のブローニング・キッド。
(いい気なものだ、とでも言いたければ言えばいい。)
だって、見た目はただのワカゾウ。
わかってますけどわかってないよ、と舌を出して。
(俺ってばすごいんですから。)
その辺にいる同年代と同一視なんかしちゃったら、危ないんだからご用心。

「それでは、いってきま〜す♪」

Fin.

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