Convertible

オープンカーが屋根をはずして走る姿を想像して欲しい。
颯爽としたイメージがあるのではないだろうか。
スポーティーな車体のカラーは何色だろう。
風を受けて、乗っている人間の髪が、勢いも嬉しくなびくだろう。
運転手は誰だろうか。
同乗者は誰だろうか。
もしかして、あなただろうか。
オープンカーが走るのはどこの道だろう。
山の中? 海岸沿い? 都会の真ん中?
別のタイプも想像できるだろう。
例えば、高貴な方々が正装で乗る祝賀のオープンカーはどうだろう。
たぶん白か黒のボディで、大きく豪華な造りの車だ。
豪華なパレードと、その只中を行くオープンカー。
降り注ぐのは暖かな日差しと、何だろうか。
紙ふぶき、花びら、街道からの呼び声。
それとも、好奇心旺盛な野次馬たちの視線だろうか。
凱旋する勝利者たちもよく乗っている。
スポーツ界の優勝パレードなどが主な例だ。
こんな想像はどうだろう。
かの有名なJ.F.ケネディ元米国大統領。
彼はオープンカーでの移動中に何者かによって狙撃され、命を落とした。
隣りの席には夫人が乗っていた。世界に生放送される中での出来事だ。
頭を直撃した弾のために彼の一部が砕けて飛んだ。
次の瞬間、夫人は後ろに飛んだ夫のかけらに、必死で手を伸ばしたという。
その姿、想像できるだろうか。
さあ。
あなたが思う“オープンカー”は、どんなものだろう?



「コレほしい。くれっ♪」
明るい口調でキッドが銃を指させば、部屋の主から『裏ツッコミ』が飛ぶ。
『裏ツッコミ』…何の事はない。手の甲(=裏)で素早く入れるツッコミのこと。
ばちん。
飛んできた手の甲を受け止めたのはキッドの右手。掌も痛そうないい音だ。
なんでやねん、とぼやくのはキッド。
本来その言葉を吐きたいのは、顔をしかめる部屋の主の方だろう。
「あのなぁ……。お前ふざけんなよ。」
ため息混じりに恨めしい視線を向けられ、キッドはふーんだとそっぽを向く。
しばらく二人して黙っていたが、我慢する力がたりない方が先に口を開いた。
「この前はくれたのにー。」
当然、キッドである。
「っるせーよ、あれは奪ったっつーんだ。日本語は正しく使いなさい。」
じろり、にらみつけたのは、やや髪が伸びた感じで不精ひげの目立つ男だ。
部屋の主。
表札には、『柏谷 圭介』とある。
本名不明。
通称ならば、『けいちゃん、けーた、K、けいちろう』などなど。
ここでは、表札のとおり『圭介』と呼ぶことにしよう。
圭介はこの四畳半のボロアパートに住んでいる。
究極のイン・ドア派。
いつ訪ねても、確実に部屋にいる人だ。
それなりに暮らす気楽なガン・コレクターであり、実は情報屋でもある。
彼は以前、キッドに二挺のブローニング・ベビーを 強奪され 与えた人物。
その経験がトラウマにでもなっているのだろうか。
今度はしっかりと手の中の銃を防御している。残念なことに、スキはない。
望みの品をくれないと知ると、キッドはブツブツ憎まれ口を叩きだした。
「何だぁケチぃ。髪の長さ微妙なんだよ、切れっ。」
突然、キッドに向かって水滴が飛ぶ。
「冷てっ!」
騒ぐキッドに向けて、圭介はもう一度水滴を飛ばしてやった。
確かに冷たいことは冷たいだろう。
なにせ、飲物の中にあった氷をつかみ出して溶かしたばかりの水滴だ。
「今の話に髪の長さは関係ないだろーが。」
表情険しく圭介の指摘。
それに対してキッドはまたも同じネタで言い返す。
「美容院くらい行けって!その髭も微妙。あと風呂入れ!」
「出かけるのが面倒なの。だいたいこのアパート風呂無しなんだよ。」
圭介がいいかげんうんざりしてきた口調になっても、キッドは負けない。
「銭湯とか行けば?そんくらい外出ればいいじゃん。」
圭介は解体中の銃に視線を落としたまま、手を止めずに応える。
「それが遠いんだっつーの。簡単に言うなよ、コレだから風呂付2LDKは。」
小金持ちめ、とつけたして、やっとキッドに顔を向けた。
ずい。
キッドはここぞとばかりに身を乗り出す。
「なにおぅ!? 今のオレ、けっこー大金持ちだぞ!」
低いテーブルに両手をつき、鼻っ面を近づけるようにして。
しかもまじめな表情で言うものだから、圭介はブッと吹き出すしかなかった。
「はいはい、キレ方間違ってる。とにかく絶っっ対やらねーよ。」
ダメのオマケに、でこピンを1発。
キッドは額を押さえて畳を転がる。地味に痛い。

「………でも、まあ」

あきらめてふてくされたポーズを取るキッドの耳を、圭介の声がくすぐる。

「いいネタもって来てくれたら考えようか?例えばオープンカーの話、とか。」

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