Convertible

※ caution!! ※
 この先には、暴力表現・残虐表現が含まれています。
 血や大怪我が苦手な方はご注意を!
 また、暴力表現のため、R−15指定になります。
 身体か心の年齢が十五歳以下の方は見ちゃダメ。

現れた人間たちは、キッドに気づかず、上へと登ってきた。
三人とも作業員の服装だが、ヘルメットはない。
これから高い所で作業をするのに、この軽装はちょっと不自然だ。
三人がはめている黒っぽい手袋も気になる。
普通は軍手の類だろう。どうもあやしい。
キッドはそのまま息をひそめ、一人ずつ観察してみた。
先頭はやけにガタイのいい男だ。
腕の力でぐいと体を引き上げた瞬間、袖口から刺青が見えた。
二人目は、ただ一人、質感の違う手袋をしている。
よく見ると彼の腰にだけ小さな荷物があった。
さっき発見した銃の側に弾薬がなかったことを思い出す。
もしかすると、荷物の中身がそれかもしれない。
おそらくコイツが狙撃手だろう。
最後に来たのは、ひょろりと痩せた中年の男だった。
ときどき前の二人に指示を出している。
たぶん彼はまとめ役か依頼人、もしくは依頼者の代理人だ。
三人はまっすぐに銃のあった場所へ進んでいく。
そう、確かあれは『レミントンM700』。
今頃になって、置かれていた銃の名前を思い出した。
猟や狙撃に使うには良い品だと圭介に教わったことがある。
キッドは、じっと出て行くタイミングを計っていた。
早すぎれば逃げられてしまうかもしれない。
遅ければ奴らが銃にたどり着く。
だが。
ここまで考えて、ふと、キッドは基本的な疑問を持った。
そもそも彼らの目的は何だ?
おそらく誰かを葬るつもりなのだろうが、いったい何のために?
……何も思いつかない。
(だったら直接、聞いてみますか。)
頭の中でつぶやいて、キッドはするりと隠れ場所を出た。
向こうはまだ、こちらに気づく気配はない。
ポケットの中の相棒たちに手をかけて、キッドは息を吸い込んだ。
何と呼びかけようか?
『こんなところで何やってんの?』
『オープンカーって知ってる?』
直球すぎて芸がない。それより何かいいセリフはないか。
考えている間に、三人が立ち止まった。
気づかれたか?
耳を澄ます。
「どうした?」
先頭の一人が、真後ろの男に尋ねている。
後ろの男が何か言う。だが、言葉までは聞き取れない。
唇の動きを読んで、キッドはちょっと肩をすくめた。
どうやら銃の位置が違うと言っているようだ。
さっき、特に気をつけないまま戻して置いたからだろう。
もう一度息を吸って、咳ばらいを一つ。
ナナメ45゜くらい下の方で、三人が一斉にこっちを向いた。
「何だ、テメェは!」
ガラの悪い言い方で先頭の一人が怒鳴る。
「そっちこそ。」
軽〜く答えながら。
相手との距離、武器、様々なものを一瞬で計る。
いきなり襲いかかるわけには行かないが、油断もできない。
今はまだ、敵か味方かすら判断できないのだから。
「どこのガキだ……」
じわじわと歩を進めながら、刺青さんが重低音の声を出す。
ちょい、と眉を上げて。
キッドは答えた。
「どこのガキだと思う?
 ヒントあげるよ、オレ、『オープンカー』好きなんだよね〜。」
看板の板をコンコン叩く。
裏側はただの板だが、表は『オープンカー』の絵。
とたんに三人の目つきが変わった。
「くそっ、邪魔する気かこのガキ!サツか!?」
や、どう見ても「サツ」じゃないでしょ、と指摘するヒマもなく。
刺青の男はふところから拳銃を抜いた。
ほぼ同時に、キッドの両手がポケットから跳ねる。
あっと驚きの声をあげて刺青の男は手を押さえた。
吹っ飛んだ拳銃が鉄骨に当たりながら落ちていく。
金属どうしがぶつかる、高く澄んだ音。
手を押さえる刺青さんの後ろで、狙撃手が例の銃に手を伸ばす。
見逃さない。
キッドはすぐに次の行動を起こした。
細い鉄パイプの上を一気に駆け抜け、華麗にジャンプ。
空中で一回転、かがんだ狙撃手の背中に勢いよく着地する。
狙撃手は両足の直撃を受け、つぶれるように前へと倒れこんだ。
しかし、完全に決着がつく時間はない。
気を取り直した刺青さんがキッドに迫っていたからだ。
その隙に、狙撃手は自ら転がって、一つ下の足場に落ちた。
刺青の男は、手にした短刀を振り回す。
いや、この場合は短刀というより、ドスと表現するべきか。
キッドは身軽に攻撃をかわしながら、相手の構えを警戒していた。
短刀を相手にするとき、低く構えた姿勢からの突きが一番怖い。
だが、刺青さんは構える気配すらなく、横なぎに刃を振り続ける。
プロの狙撃屋一味にしてはずいぶんと荒い戦い方だ。
これではただのケンカ屋と大差ない。
単調な攻撃に、つい、キッドの気が緩んだときだった。
「!!」
足をつかまれる。
下の段で倒れていた狙撃手が起き上がったのだ。
これは失敗、なんというウッカリ。油断した。
ドスを構えた男は凶悪な表情で笑った。
横に一文字、空気を切り裂くような一閃が来る。
キッドは一瞬の後悔とともに、きらめく刃を胸で受けた。
カチャッ!
変な音がして、刃が止まる。
どうやら何かに引っかかったようだ。
思わず視線をやれば、刃を止めたのは胸のポケット。
ハッと思い出す。
あの、男の子にもらったミニカーだ。
今日はやっぱりついてるかも、などと思う。
そうとは知らない相手は驚きの表情でただ焦っていた。
一瞬の出来事、チャンス。
ガラ空きの下腹に蹴りを打ち込む。
うっとうめいてよろけると、相手はその場にすっ転んだ。
前の相手をあしらったところで、足をつかんでいた手を踏みつける。
それでも離れない手の主に向かって、キッドの右手が伸びた。
いつの間にか握られていたのは可愛い拳銃、お馴染みの相棒。
立て続けに二発。
正確なショットが相手の頭のてっぺんにずがんと響く。
とはいえ、まあ、威力の弱いベビーの弾丸だ。
さすがに頭蓋骨を貫くところまではいかない。
しかし、手を離させるには十分すぎる攻撃だった。
脳が揺れて意識が飛んだのか、狙撃屋らしき男が崩れ落ちる。
キッドの追撃。
ちょうど上を向いた耳の穴を、弾丸でぶち抜いた。
男はバランスを失い、そのまま下へ落ちていく。
キッドは自由になった足さばきも軽やかに、前へ向き直った。
刺青さんは当然復活済みだ。
今まさに、落としたドスを拾い上げたところだった。
もう一度かかってくる相手に視線を走らせ、相棒をポケットへ。
それからすぐ側にまっすぐ立っていた鉄パイプを両手でつかんだ。
刺青の男が身を起こす。
ほとんど同時に、半ばジャンプするように鉄網を蹴った。
体を真横にしたまま腕の力と反動で回転させる。
組み合う鉄パイプや鉄骨の間をひゅんっとすり抜ける身体。
スピードを威力に変えて、相手の体に両膝を叩き込む。
確かな手ごたえ、いや、足ごたえ?
喰らった相手は鉄網の足場からすっ飛んだ。
悲鳴だけを残し、刺青の男は空洞の中を落ちていく。
遥かなコンクリートの屋上まで、さえぎるものは何もない。
キッドは、鉄パイプにすがりながら鉄網に降り立つ。
やれやれ一段落かと汗をふきかけた、そのときだった。
小さな音が耳をかすめる。
キッドの両手はポケットに飛び込み、瞬間的に飛び出した。
反射のような素早い反応。
両手に握られたのは、二挺のベビーたちだ。
銃口の先で。
音を立てた本人、最後の一人ががくがく震えていた。
殴りかかる気だったのか、例の狙撃銃を棍棒のように握っている。
彼は銃を振り上げた姿勢で固まっていた。
二挺の銃とキッドの全身を、食い入るように見比べながら。
これ以上ないほど隙だらけだけれど。
撃つのはやめて、こっちからもじっと見てやる。
「キッ、キ、キッ……」
最後の一人が、何かを言いかけた。
どうやら彼はキッドの名を知っていたようだ。
ということはもちろん、すごすぎる腕前や活躍ぶりの噂も。
何分、にらみ合っていたのか。
ついに、彼はその場にへたり込んだ。
しりもちをついたままで後ずさりする、最後の一人。
アンモニアの臭いがして作業服の股が濡れていく。
助けてくれとつぶやく姿に、もはや戦う意志は感じられない。
キッドは視線をつき刺したまま、男が逃げ去るのを待った。

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