Garbage box

ゴミ箱の話なら、あるにはある。
ただ、あまり楽しい話ではないのだ。

あれは、去年のことだ。
雨の夜、アパートのゴミ捨て場を通りかかったときだった。
ゴミ箱の中から、何か聞こえた。
“みー、みー、”
消え入りそうな声がする。
思わず足を止めた。
(仔猫…)
小さな仔猫の愛らしい姿を思いながら、そっとふたを開けた。
「ッ!!」
途端にのけぞった。
仔猫はいた。
ずたずただった。毛皮が破れ、膿み、得体の知れない虫がわいていた。
目玉が一つ飛び出ており、前足からは骨が見えた。
全身、元の色がわからないほど汚れていた。
自動車にでも当てられたような有様だった。
すでに死んでいると思われ、捨てられてしまったのかもしれない。
こんなにひどい姿なのにまだ息があり、必死でみーみーと鳴いていた。
バタン!
あわてて、ふたを閉めてしまった。
“みー、みー。”
迷いに迷った挙句、僕は逃げるようにその場を立ち去った。
振り向くと、どこからかカラスが大量に現れ、ゴミ箱の周囲を囲んでいた。
助けてやればよかったかもしれない。
いや、どのみち瀕死だった。
きっと病院に連れて行っても助からなかったろう。
助けようと捨て置こうと、あの仔猫はきっと息を引き取ったはずだ。
思い出すたびに自分に言い訳をし、なんとか罪悪感を薄めようとする。
しかたなかったんだ、と。
今も、ときどきあの光景の記憶が襲ってくる。
そのたびに後悔する。
なぜ拾い上げてやらなかったんだろう。
何を恐れ、何を迷っていたんだろう、と。
時と共に後悔の辛さは薄らいでいく。が、あの日の記憶は消えはしない。
あのときの仔猫を思う。
助かっていてくれるといい。
でも無理だろうから、せめて苦しまずに逝ってくれていればいい。
丸いふたのついた、ポリバケツだった。
同じようなゴミ箱を見るたびに、今でも僕を満たす苦い思い出だ。

そう、そういえば。

ゴミ箱と言えば、もう一つ、思い出す話がある。
こちらは、もうめったに思い出すこともなくなってしまった話だけれど。
さっきの仔猫とは逆に、拾われた、という話だ。
ただし、いったん蹴り落とされてから、なのだが……。

聞いてみたいかな?

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