P.S.

※ caution!! ※
 この先には、暴力表現・残虐表現が含まれています。
 血や大怪我が苦手な方はご注意を!
 また、暴力表現のため、R−15指定になります。
 身体か心の年齢が十五歳以下の方は見ちゃダメ。


手紙が届いた。
古い友からのものだった。どうやら噂を聞きつけたらしい。
私が、ある少年と敵対するかもしれない、という噂だ。
正確には、私がある少年を始末する依頼を承諾するらしいという話になる。
懐かしい筆跡。
久しぶりの手紙には、彼やその家族の近況と私への言葉がつづられていた。


友へ。
元気にしているか?
噂は聞いている。あいかわらず敏腕らしいな。
我々が相棒だったころから、君の名声にかげりは無いようでなによりだ。
こちらは、まあ仲良くやっているよ。
妻も子どもたちも元気そのものだ。実は最近、旅行をせがまれている。
しかも海外だ。まいったものだよ、なんと行き先は××なんだ。
二人で散々暴れていた国だから心配だよ。できれば行きたくないが、
家族はどうしてもツアー旅行に申し込むんだと言っているのさ。
いや、過去の敵に出くわさなければいいんだが。
もうそんな心配も要らなくなってしまった、というのが妻の言い分だ。
ひどいじゃないか、老いぼれ呼ばわりとは!そう思うだろう?
しかし楽しそうな家族を見ていると、自然と愛しさがこみ上げてくる。
不思議なものさ。

ところで君は、最近新しい仕事に取り掛かろうとしているらしいな。
そこで、忠告なのだ。
どうかこの長い付き合いの言葉を信じてほしい。
噂が本当なら、私は彼をよく知っているのだ。
若輩者と思うな、友よ。手を出すべき相手ではないのだ。
あの少年は、キッド(若者・子ども)なんてかわいいもんじゃない。
正真正銘、銃の申し子みたいなもんだ。知恵も利く。化け物だよ。

どうか気を悪くしないでほしい。
君の腕を軽んじているわけではない。これは確かなことだ。
しかしあまりにもお勧めしない相手なのだ。
どうか、君が賢明であり、幸運であることを望む。
この手紙がもし間に合ったら、噂の依頼は受けないでくれ。
依頼の決定に間に合うことを祈っている。
そして、君がこの古い友人の忠告に、耳を傾けてくれることを祈る。

親愛なる友よ。
これで手紙を終えよう。
ぜひ今度、会おうじゃないか。うちの家族も君に会いたがっているよ。
海外旅行よりずっと魅力的な話だ、君さえよければ遊びに来んかね?
最近じゃ日本からの観光客もずいぶんといるんだ。
きっと楽しめる。ここは気候もよく、素晴らしい国さ。
よく料理がまずい国だなんて言われているが、うちの妻のは美味い。
本当さ、保証するよ。
では、再会できる日を楽しみに。

B.Akihiko,元相棒より


P.S.


手紙は、そこで終わっていた。
私は深々と煙草を吹かす。
残念ながら彼の手紙は間に合わなかった。
私はすでに、その依頼を承諾してしまったのだから。

『P.S.』

その下は余白だった。
なぜかここの文字だけはインクの色がかすかに違う。
追伸を示すP.S.の文字。
じっと見ていると、ほんのわずかな違和感があった。
筆跡が、違う……?
同じような気もする。
よく見ればインクも、濃淡の加減で違って見えただけのようにも思えた。
『P.S.』の下にあるべき追伸の文章はない。
真っ白に続く無言だけが紙を埋めている。

胸騒ぎが、した。

ざわざわと襲い来る、正体不明の不安。
耐え切れずに席を立った。
窓の外を見る。
気がつけば、外はすでに薄暗い。
電気をつけて部屋を明るくしてみる。
すると少しだけ不安が収まった気がした。
どうやら、灯りが人を安心させるという説は本当らしい。
明るい室内には、特に妖しい影もなかった。
変わらないいつもの光景。
それでも、どこか違う気がする。
ぬぐいきれないざわめきを感じたまま、もう一度窓に向かった。
(ブラインドを下ろそう。)
そう思ったとき、異変に気づいた。
窓の外、ゆっくりと落下する人影。
いや、本当はまともなスピードで落ちていたのかもしれない。
とにかく、ゆっくり落ちていると見えたのだ。
その、小さな銃を両手に構え、ぴたりとこちらを見据えた人影は。
二挺同時の発砲。
ガラスに開いた穴は二つだ。
最初にビシ、といったきり、音はほとんど聞こえなかった。
一発目で開いた両方の穴から、連続で弾が滑り込む。
ゆっくりと、這うように、スローモーションで再生したように、弾丸が来る。
よけられない。
二度、三度、四度。
両目、鼻、喉、喉……。
衝撃と、焼けつくような熱さを感じた。ああ、撃たれたのだ。
どこか他人事のように思う。
あくまでも、スローモーションで。

『若輩者と思うな、友よ。手を出すべき相手ではないのだ。』

親切な手紙の一節を思い出す。
確かにそうだったようだな。
もう目は見えない。
両目から溢れているのは血だろうか、眼球の中の液体だろうか。
息が苦しい。
鼻の傷から、熱い血が口にあふれる。
喉から大量の血が吹き出ていく感覚があった。
血液が失われるとともに、体から温かさが消えていくのがわかる。
ゆっくりと倒れながら私は全てを理解した。
『P.S.』
違和感のある文字。
あの余白。そこに隠れた追伸の意味を。

追伸は、この弾丸……。

Fin.

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