Waiting in vain

そして当の待たせ人、走る勢いそのままに飛び込んだのは。
「いらっしゃいませー。」
朝から明るい、近くのコンビニでした。
てきとーな食物をカゴに放り込み、レジにどん。
「おにぎり温めますかー?」
「いいです!」
袋をつかんで、再び猛ダッシュ。
風のように堤防を内側に駆け下り、そこに、男を見つけた。
しかし。
「……。」
呆れが全身に染み渡る間に、弾む息が整う。
男はいた。
コンクリートの橋げたにもたれ、いねむり全開のご様子で。
残念ながら、相手が寝ているのではお話にならない。
というわけで、朝食タイムだ。
実はこちらも朝早かったせいで朝食抜きだった。ちょうどいい。
くたびれた男の隣りに座り、寝ぼけ面の少年はツナマヨおにぎりをパクつく。
なんだかちょっとわびしい光景。
だが、屋外で食べるおにぎりは意外とおいしかったりする。
キッドが食後の缶コーヒーを飲み終えたとき、隣の男が身じろいだ。
やっと目を覚ました男に、キッドから声をかける。
「おはようございます。」
にやり。
ここぞとばかり、今度のご挨拶はこちらから。
「……おはよう。」
不審そうにキッドを見つめる男。
そりゃそうだ。うたた寝から、覚めていきなりこの状況。
いまいち飲みこめないに違いない。
「はい、これ。」
困惑と寝ぼけが混じった表情の男に、ビニール袋を差し出す。
「……なんだこりゃ。」
「朝飯。」
ぼやく男に、キッドはにこやか&簡潔に答えた。男は呆れ顔である。
「買ってきたのか?」
苦笑しながら、ウーロン茶のボトルを取り出す。
「もらうぞ?」
問い掛けてくる男。
その目を少年らしい視線で見上げながら、もう一度言った。
「遅れて、申し訳アリマセンデシタ。」
腹の底から声を出して笑い、男が食事に取りかかる。
オナカの中で、舌を出しているのは誰?
「さてと……。」
男がつぶやく。
きらん。
キッドの目が光る。
「ごちそうさまでした!」
二人同時に立ち上がる。
「殺し合いをする気はないさ。」
言い放ちざまに、男が飲んでいたコーヒーの缶を放った。
きらきら、金色の缶が飛ぶ。
空洞の金属が転がって響く、高く鈍く、通る音。
「ほんとに?」
キッドは片眉を上げる。
「ああ、殺し合いじゃない。『腕試し』だ。」
男の手に、重いリボルバーが光る。シルバーモデルの粋な輝き。
「橋の向こうに一人、こちらに一人、弾がなくなるまで勝手に打ち合う。」
ちらりと確認すれば、男の銃は弾数は6発。
「殺し合いじゃん。」
吐き捨てながら確認するのは、ポケットの中のかわいいベビー。
こちらも一挺につき、弾数も6発。ただし、二挺拳銃。
「言葉遣いがなってない。」
「うるせって。弾数は?」
渋い表情の男にポンと返す。キッドの両手は、すでにポケットの中だ。
「……6発でどうだ?」
探るように男が言う。
「いいね、勝敗は?」
「弾が尽きたときに立ってた方が勝ち、さ。」
キッドの返事は軽快だ。男の口調は、やや重い。
「お前は赤ん坊銃だからな……隠し持たれかねない。見せろ。」
言われて、不本意そうな表情で両手のポケットから手を出した。
右手の先には当然のごとく小さな銃。しかし、左手には何もない。
「もう一つは?」
お前は二挺使いだから、と言外のお叱り。
男にうながされ、キッドは仕方なくといった顔で背中の方から一挺、取り出した。
よし、とうなずく男。
おや、心の中で密かに舌を出しているのは誰?
「こっち使うよ。」
キッドがポケットから出した方を示すと、男はにやっと笑って奪い取った。
「そっちを使おう、な。」
男が背中から出た方を指さす。
少しむっとした顔でキッドがうなずいた。
使わない方は、橋げたから少し飛び出ている鉄の棒に引っ掛ける。
宙づりの『ブローニング・ベビー』は少し寂しそう。
「俺の得物はこいつだ。」
男が言う。早朝の陽に輝く、シルバーモデルのリボルバー。
『ベビー』とはくらべようもない、威風堂々たる姿。
「いつ始める?」
キッドが問えば、男が笑い、風が吹き通る。
「さっきから質問攻めだな。」
「そーね♪」
キッドも笑う。
突然、男が言った。
「お前に帰るところはあるか?」
「ある。つーか、それより行くところがあるの。今日待ち合わせ。」
答えるキッド。
「俺にもある。『生きていたら、帰ってくる』と言ってきた。」
重く、ゆっくりと。男が言った。
「じゃ、帰れないね。」
それに対して、キッドはまたポンと返す。
「お前が行けないだけだ。」
二人同時に銃を向けた。

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