Waiting in vain
待ちぼうけ 待ちぼうけ
窓辺に座り、
下の路を眺め、
まだ、影も見えない。
紅く、物憂げな唇。気だるい印象の、妙に色っぽい女だ。
男は帰らない。
あぁ今日も帰らなかった、と、ため息をついて一日が終わる。今日で三日目。
穏やかならぬ生業を誇りとし、自らを『ガンマン』と呼ぶ男。
殺し屋という呼び名を、決して良しとしなかった。
銃を愛し、ただ銃を扱うことだけを誇りとする、古風すぎた男。
時代に合わぬこの男を、女は愛していた。
二人の生活もまた、彩るのは硝煙の香。
帰らない男は、彼女の…何であろう。
恋人、というには慣れすぎた。
夫、というわけでもない。
関係を名づけるにはあまりにも寄り添いすぎ、しかも手が届かない。
遠いようで近い存在。
おそらく、女よりも銃を愛していた男。
紅い唇がまた、気だるいため息をこぼす。
何度目かもわからぬため息と失望。
一日のうち何度もあきらめ、また何度も期待するのだ。
気になるのは、男が出て行く際に残した言葉。
「生きていたら、帰ってくる」
いつもどおり、キザに出かけただけでしょう?
そう言い聞かせても、最後の言葉が胸の奥から響く。
「生きていたら、帰ってくる。」
お決まりの、いつものセリフ。
格好をつけたいだけのキザなセリフ。お決まり過ぎて意味すらない。
なのに、耳の奥、チリチリと焦げる。
記憶の中、珍しいくらい小さく見えた背中に思わず手を伸ばした。
今までにも家を空けることは多かったけれど、今回はどこか違う気がする。
帰るのはいつだろうか?
明日、明後日、それとも……
紅い唇の女は、初めて悲しみのために目を伏せた。
今までは待ちくたびれても、悲しんだことなどなかったのに。
待ちぼうけ、待ちぼうけ…、
そんな歌があった気がした。
あれは童謡だったか、たぶん愚か者の歌。
待ち続ける自分が愚かな怠け者と重なって、女は薄く笑みを浮かべた。
待ちぼうけ、待ちぼうけ。
奇しくも、同じ日、同じ時、同じ町で、二人の女性が待ちぼうけをくっている。
小柄な白いコートの女の子と、気だるげな紅い唇の女。
一人は約束に遅れた彼氏を待ち、一人はいまだ帰らない男を待ち。
白いコートの女の子は、レンガ造り風のアパートの壁、角近くに寄りかかって。
紅い唇の女は、レンガ造り風のアパートの中、薄暗い窓辺にため息をついて。
彼女が座る窓の下、彼女が立つ頭の上。
待ち人は、まだ?
と、窓の下で歓声が聞こえる。
少女だ。
見れば、同じくらいの年頃の少年が駆け寄ってくる。
遅刻した彼氏の登場、といったところか。
少年は両手を合わせ、何度も何度も頭を下げた。平謝りである。
少女の白いコートがうれしそうに揺れた。
よかったわね、待ち人が来て。
少女の様子をほほえましく思いながら。
同時に、なぜか憎しみすら感じながら、平謝りの少年を見た。
待ちぼうけ、待ちぼうけ…、
男は、帰らない。
Fin.
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