99%

いらっしゃい、初めてのお客さんかね。

あぁ。見物だけでもかまわんよ、よく見ていくといい。
時間はたっぷりある。さあ、ゆっくり眺めなさい。
私のことなら気にせんでいい。
今、ちょうど考え事をしてたところだ、『天才』というものについて。
1%のひらめきと99%の努力、と言ったのは偉い発明家だが。
私は、違うことを思う。
『天才』とは、1%の才能、そしてと99%の運だ。
天性の才。
それがまずは重要。
自分の才能に気づけるかどうかは運しだいなところがある。
それに、気づいた才能をうまく生かせるかという点でも運が大切だ。
おや。
ちょっと待ってくれ、またお客さんだ。

「下らん無駄話だった。」
聞いていたのかね。
気づくのが遅れたのは悪いが、そんなにカリカリするこたぁないだろう。
だいたい入ってきたなら声をかけてくれればいいじゃないか。
あんたも人が悪いな。まぁ、私の耳が遠くなったせいもあるか。
話をしていたからといって、入ってくるお客さんに気づかんとは。
「馬鹿げた話だったな。
 運やさだめなどない、全ては実力でのみカタがつく。」
それは違う。
『天才』と呼ばれるには運が必要だ。
たとえどんな凄腕でも、運のないやつに陽の目はないさ。
「凡人は何とでも言え。負け惜しみで難癖をつけたいだけだろう。」
かわいそうに。
「何だと?」
あんたは本物の『天才』を知らん。
だからそんなことを言うのさ、しかたがないことだ。
だがきっと、そのうち知ることになるだろう。
ほれ、あんたの品だ。お代は前払いだったな。
注文どおりの品か確かめとくれよ。
そんなにカッカしなさんな。本物に出会えばあんたにもきっとわかる。
大丈夫だとも。
知らないことは、悪なんかじゃない。

……出て行ってしまったか。
しかたがない。
若いから、どうしても自分を過信してしまう。しようがないことだ。

ああ、またお客さんのようだな。
いらっしゃい。おや?これは可愛い坊やだね。
「坊やって!せめてワカモノにして欲しいっ。」
おやおや。これは失礼。
ふぅむ、君くらいの年代でうちの店に来るとは珍しい。
「そーかもね。」
御用は何かな?お買い物が一挺、弾はこれだけでいいのかね。
あとは何かあるかい?
ああ、もちろん持ち込みもありだ。
弾のカスタムだね。内容は……ふむ、ずいぶん通好みな注文だな。
「どう?できれば午前中に頼みたいんだけど。」
どれどれ、貸してご覧。
ああ、この弾ならそう時間はかからないよ、任せなさい。
うーむ、ただ老眼には向かないね。
いや、小さいなぁ。こりゃ大変だ。はっはっは!
長年商売をやっているが、こんな弾でこの注文は初めてだよ。
ところで、坊や。
「坊やじゃないって〜」
ははは、そうかそうか。
これは、失礼。
それじゃあ何と呼べばいいかな?
「キッド。」
…………。
そうか、キッド、か。
……そうか。
……なぁ、キッドさん。
「なぁにー?」
あんたにとって、『天才』とは何だと思うかね?
「天才?」
ああ、そうだ。ちょうど考えていたところなんだ。
1%のひらめきと99%の努力と言うのを聞いたことがあるだろう。
昔はいいことを言ったもんだと思っていたが、考えが変わった。
むしろ、1%の才能と99%の運だと思う。
実際、運がなけりゃ『天才』とは呼ばれん。
何人ものお客さんが訪れ、何人かは消えていく。
自分の才能に気づかず、気づいても生かしきれず埋もれていく。
見込みがあると思ったやつがな。
本来の能力を役立たせることができないまま、消えるのは悲しい。
あんたは、どう思うかね?
ぜひ『天才』ご本人の意見を聞いてみたい。
君が、本物のブローニング・キッドだというのなら。
「オレって『天才』なの?」
笑った顔はただの若者だな。
だが、噂は聞いているぞ。
「だったら『天才』の条件は、100%オレっぽいことじゃない?」
ははは、99%くらいはそうかも知れんな。
「じゃ、残りの1%あげるよ。」
私に?
そりゃまた、どうして。
「『天才は天才を知る』って誰かが言ってた。」
光栄だね。
「ふふっ。えーと、お金は全部でいくら?」
料金は……。
少し負けておこう。
今後ごひいきに、『天才』さん。
さて、できあがりだ。
「ウソ?早っ!手際よすぎ。」
慣れだ。
「へー、good job!
 あ、オレ、わかった。
 『天才』は、8割は運だけど、15%くらいは才能。
 あと、周りっつーか……、そう、環境。
 環境が1%、やる気が1%、で、慣れが2%はあるね!」

ん?
それじゃ1%足らんぞ?

「あれ?」

Fin.

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