Two cream puffs,yeah!
※ caution!! ※
この先には、暴力表現・残虐表現が含まれています。
血や大怪我が苦手な方はご注意を!
また、暴力表現のため、R−15指定になります。
身体か心の年齢が十五歳以下の方は見ちゃダメ。 |
床を蹴るのとほとんど同時に、キッドの手がポケットを飛び出す。
バネの利いた身体が宙に浮き、女と、彼女の『部下』たちの視線を集めた。
その瞬間。
閃光。
跳んだキッドの右手から、凄まじい光が真っ白に弾ける。
キッドの左腕は目を覆い、右手の指はビー玉サイズの丸い物を持っていた。
ハイパーな照明効果はビー玉ほどの細工から。
一応の準備だったが、煙幕代わりに持ってきたのは大正解だ。
カメラのフラッシュを数千倍にしたかというくらい、まぶしすぎる光の目つぶし。
視界を奪われ、包囲陣の動きが止まる。
相手の隙を素早く判断、あっという間に逃走開始。
人々の間をすり抜け飛び越し、キッドはにぎやかな通路の人混みへと走った。
『部下』たちと女が我に返るより早く、買い物客の群れにまぎれ込む。
ダッシュ直後でも乱さない余裕の呼吸はコーヒー風味。
さて、と一息ついて。
周囲の気配に気をつけながら、キッドは2・3回強くまばたきをした。
今頃になってハルシオン ―― 睡眠薬の効果が現れてきたのか、少しだけ眠い。
シュークリームに隠すようにして、効き目を中和する薬を飲んではいたのだが。
どうやら、完全には打ち消しきれていなかったらしい。
不覚にもクラッと来そうな眠気に逆らって、ちょっと考える。
後ろから来るはずの追っ手のことだ。
やつらの目の前を走って逃げたらどうなるだろう?
せいぜい、食い逃げ呼ばわりされるのがオチだ。
そうなれば周りの客や店員までもが敵になる。
一般人には手加減するから、キッドと言えども苦労は確実。
万が一、捕まってしまったら?
女の店に引き渡され、一般の皆様の誤解を解く前にTHE ENDだろう。
(つーか、かっこ悪いよな。捕まる以前に『食い逃げ犯』だと思われるのが……。)
のんきな悩みを抱えつつ、キッドは目の動きだけで辺りを探った。
例の喫茶店から出て、ほんの数メートル。
今いる場所は、若者向けのブランドが並んだファッション通りだ。
キッドは一軒のジーンズショップに入り、細身のパンツを手に取った。
当然のように試着室へ。
カーテンを閉め、ポケットからミント味のタブレットケースを取り出す。
厚いカーテン越しに、外の様子をうかがって。
気づかれていないようだと判断し、ケースの中身を二粒、手に転がした。
「追加、追加。」
独り言と一緒に、タブレット菓子そっくりの錠剤を口へと放り込む。
一見ミント系の菓子にしか見えない白い粒は、睡眠薬の効果を中和する薬だ。
カリ、と噛み砕く。
口に広がる粉っぽさ。
苦味と酸味、そしてかすかな痺れが舌先をくすぐる。
眠気が飛ぶのを待ちながら。
キッドは腕時計を確かめた。
文字盤の深いウルトラマリンブルーに、銀色の針が時刻を示す。
余裕がないわけではないけれど、遊んでやるには時間が足りない。
それなら、と予定を組み直す。
本当はもっと派手に暴れてやるつもりだったが、しかたあるまい。
女との会話がとにかく長すぎたのが原因だ。
薔薇のような女の微笑を思い出し、フンと鼻を鳴らす。
まもなく、眠気の霧はすうっと晴れた。
試着室を出て、ゆっくりと店の前へ。
途端に、見覚えのあるウェイターと目が合った。トイレについてきた男だ。
二人の距離、およそ7歩といったところか。
やぁ、とばかりに片手を挙げてご挨拶。
向こうも気がついたのだろう。ウェイターの表情に緊張が走った。
対するキッドはすまし顔。
早足で近づき、瞬く間にウェイターの真ん前に立つ。
意表をつかれたのか、男がひるんだ。
くくっ、と笑って。
キッドはそのまま歩き出す。なぜか、走り出そうともせずに。
立ち去るキッドの背後にウェイターの手が迫る。
肩をつかまれる寸前、キッドは急に身体の向きを変えた。
くるり、ターンはエレガントに。
するりと男の腕をかわす。
ついでに足をひっからめてやったら、ウェイターは盛大にコケた。
何人かの客が、転んだウェイターをまじまじと見つめている。
その間に足を速めて、キッドはさっき離れたばかりの階段へ向かった。
喫茶店の横にある、追っ手だらけの階段に。
幸い、階段までの数メートルに追っ手の姿はないようだ。
キッドが階段への角を曲がると、その先にいた者たちはいっせいに身構えた。
女はいない。
彼女の『部下』たちが10人ほどいるだけだ。
先ほどにくらべるとかなり少ない人数。
たぶん、キッドを追うために分散してしまったのだろう。
目指すは地上。
キッドが動く。
迫る『部下』たちの目に映るのは、ポケットに飛び込むキッドの両手。
飛び出す。
光のようなスピードで握られたのは二挺の拳銃。
こんなところでは使わないだろう、とでも思っていたのか。
『部下』たちの顔に驚きと似た表情が浮かんだ。
手のひらサイズの小さな銃たち。
キッドの象徴、ブローニング・ベビー。
迷わず引き金を引く。
くしゃみより小さな銃声は、店内放送の陽気な音楽に消えた。
狙いは正確。
一発の無駄もなく相手の首筋を捕らえ続ける。
動脈を食いちぎる弾丸の牙。
たまらず声を上げる者。
血の噴き出す傷口を押さえて倒れる者。
一般客の目を気にしてか、慌てて身を隠す者。
自然に人の壁が崩れた。
自らの弾丸が開いた道を、下階に向けてキッドが走る。
何人かの上げる血しぶきで辺りは赤く染まっていた。
黒のジャケットに黒いシャツ、濃紺のジーンズはローライズスタイル。
今日のキッドが身に着けた服は、いつになく全てが黒っぽい。
濃い色の布地は血の飛沫を吸っても色を変えなかった。
赤い雨を浴びるのも構わず、キッドは飛ぶように階段を降りる。
キッドの背後に、無傷の『部下』たちが追っ手として続く。
逃走劇は、始まったばかりだ。
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