Shall I tell you something about revolution? .
 教えてやろうか、革命のことを。 .




これは、とあるジャーナリストが録音した、ある日のインタビュー内容である



語り手:酒場の店主 ( 52歳 独身 男性 )


お、いらっしゃったね。
ありゃ? お二人さんかい?
……へぇ、そちらはタクシーの運ちゃん?
なるほど、お客さんの道案内ついでに一杯やりに、ってわけかい。
ああ、構わねぇよ。
だが、ちょっと悪いがそっちの隅で飲んでててくれるかい?
このお客さんとは二人で話したいんでね。
……。
さて、と。
やぁ、いらっしゃい。
びっくりしたかい? 明かりが消えてるんで閉まってるかと思ったろ。
実際、店は閉めてあるんだがね。
今日はあんたが来るから、臨時休業にしてやったよ。
いろいろと話が聞きたいんだろ?
他人がいない方がしやすい話もあるかと思ってね。
いやぁ、いや、礼なんかいいんだ。
あんたのやってる……例の騒ぎについての取材?とかいうやつ?
そいつがどうも面白そうに思えてねぇ。
ちょいと一肌脱ぐ気になったのさ。
しかしジャーナリストさんねぇ。
偉いんだろうねぇ、よくわかんねぇけどよ。
まぁ座って。
はいよ、水割り。
他にもどうだい、何か飲むかい?
見てくれはこんなだがね、俺もバーテンとしての腕はそこそこなんだよ。
おっと、シェイカーを落としちまった。


ガラン、硬質な音を立てる床とシェイカー。
拾い上げるため、語り手はカウンターの向こうでかがみ込む。


よっ……と。
ああ、こりゃひでぇや。思いっきりホコリかぶっちまった。
床磨きなんてしばらくやってないんでね。
へへへ……。
例の騒ぎのことが聞きたいんだってね?
ねぇ旦那、聞いてごらんよ。
ご大層な話さ。
【Evolution(進化)】ってんだよ。
そう呼べば、まぁ、ちょっとはカッコイイわな。
ある日突然ってワケでもないんだろうけどよ。
まぁ下っ端連中や、蚊帳の外にいるこっちとしちゃあ、急な話さ。
何でも事のきっかけは、どこぞのお偉いさんが演説をぶったことだってよ。

闇に生きる同胞たちよ。
今こそ立ち上がろうではないか!
裏社会は腐敗している。
我々の生きる世界である、この裏社会が、だ。
いくつかのパートに分けられた市場を特定の者たちが独占する状況。
大手だけが談合によって取り分を決め、他の者に入る余地を与えない。
安定といえば聞こえはいいが、これが腐敗の温床でなくて何だろう。
流れない水は淀み、腐るのだ。
変化を許さない今の市場は我々の生きる世界を腐らせている。
独占という特権に胡坐をかいた大組織らの傍若無人ぶりはどうだ。
コスト削減を名目に質を下げる。
権力を盾にして代金を引き上げ、消費者に損をさせる。
そう。
表社会の市場と全く同じことが、我々裏社会の市場でも起きているのだ。
考えたまえ、諸君。
優秀でなければ裏社会では生きていけない。
つまり我々は優秀なのだ。
我々には、表社会が抱えて正せない歪みを、正すことができるはずだ。
優秀な我々には、表しか知らぬ愚民どもとは違う世界が作れるはずだ!

まぁまぁ、よくあるクソみたいなごたくよ。
バカが言い出して、バカが賛成するような夢物語。
普通に考えりゃ、あれだよ。
この世は必要悪で成り立ってんのに何言ってんだ、ってとこだよ。
そういう、独占だの談合だのって必要悪でさ。
ところがさ。
誰だか知らないが、そりゃあいいと声を上げた奴がいたんだとさ。
そいつぁ面白い、よしやってみよう、ってな。
バカだねぇ。
普通だったら笑われて終わりなんだろうが、ね。
こっからがちょっと違ってた。
その場ではどうだったか知らないがね。
それからしばらく経った頃、急にそこいらの連中が皆、叫びだしたのさ。

今こそ進化せよ!

Evolution(進化)という名のRevolution(革命)。
革命だってさ。景気のいい話だ。
いっちょ進化してこの世の仕組みを変えちまおう、そんな動きよ。
自分が進化するんだか、世の中の方を進化させるんだか知らないけどねぇ。
お題目は『誰もがチャンスを持つ世界』らしいぜ。
誰でも自由に仕事を取り合い、権力を奪い合って生きていく、ってことかね。
普通なら無視されるような取り組みが大真面目に始まっちまった。
何でそんな具合になったと思う?
あれよ、最初にそりゃいいやって声を上げた奴よ。
そいつがよっぽどの大物だったか、でなきゃこれから大物になる器だったのよ。
小物が何言ったって笑われるだけさ。
だがよ、どんな戯言だって大物が言えば世間が動く。そんなもんさ。
ああ?
何だい、納得がいかないかい?
そうじゃない?
ああ、何でそんな話を聞かなきゃなんねぇんだ、ってか?
そうじゃない?
じゃあ何だい。
あ! ああ、その薬!
そいつはサービスだよ。気持ちよくなれるぜ。やってみな?
大丈夫、そんなに強い薬じゃねぇよぉ。
ほら、ごっくん……っと。
な? 飲んじまったろ? おいらだって飲んだんだ、これで安心さ。
……おいおい、嫌だなんて言うんじゃねぇよ?
薬もできねぇんじゃ、あんたは俺の友だちじゃない。これ以上の話はナシだ。
……。
そうそう、ぐーっとやんな!
簡単だろ、コイツは。
注射器もライターも要らない。飲めばいいだけ! だから売れ筋なんだよ。
やあ、飲んだな。気分はどうだい?
まだ何も変わらない?
ははっ、だろうな。
ちょっとだけ待ちなよ、お楽しみはこれからさ。
さぁ、話の続きを始めようか。


にやり、嫌な笑いを浮かべる語り手。


さっき、お題目は『誰もがチャンスを持つ世界』だって言ったがよ。
そいつぁもちろん建前だ。
本当は皆、得がしたいだけさ。
小物はちっとでも多くの仕事にありつくために。
大物は、今まででかい顔ができなかったジャンルでも堂々とのさばりたくて。
皆、金が欲しくて動いてる。
ついでに権力も欲しいってやつもいる。
今、この裏通り……ああ、よそ者のアンタに裏通りなんて言ってもわかんねぇか。
裏通りってのは、スラム街のことな。
そうそう、この店があるのはまさに裏通り。
ここみたいな汚ぇ酒場や浮浪者のたまり場がごっそりある通りのことさ。
ここの連中ときたらないぜ。
うちは今日、定休日で、客はあんただけだ。
でも看板のライトをつけてみなよ。
集まってくる客の柄の悪いこと……皆、犯罪者か乞食寸前の貧乏人さ。
逆に表通りって言うと、この町のほとんどがそれよ。
スラム以外の部分が全部、表通りだ。
でな。
その裏通りで動いている連中や、表通りに構えている奴らが動いてんのよ。
あン? 表通りに裏社会の連中なんかいるのかって?
そりゃいるさ。
金持ちばかりの表通りにもちゃんとダークサイドってのがあってよ。
特にそっちで暮らしているのは黒幕クラスの奴らだね。間違いない。
えぇと、何の話だっけね?
そうそう、今この裏通りで動いてる連中のことさね。
あいつらはたいがいどっかの組織の下っ端だよ。
あんた知ってるかい?
この町にはいくつかの組織が出入りしてるがね。
特にでかいのは『カンパニー(会社)』の奴らだね。
『カンパニー』ってのは通称だ。特に正式名称が伝わってるわけじゃない。
だが皆そう呼ぶんだ。
会社みたいに役職や規律がしっかりした組織だからかね。
ここは老舗でね。
昔っからあるでっかい組織さ。
もともとこの町の裏市場はほとんど『カンパニー』のものだった。
直接こなすだけじゃあない。
他の組織がやる仕事だって全部そこが仲介してたようなもんでねぇ。
武器の密輸はこの組織、薬はこっち、服だの靴だのの取引はこっちが、ってね。
あと、売り物の値段を決めたりねぇ。武器とか薬とか密売酒とかのさ。
他にも、その殺しは誰と誰がやんなさいよってな具合にさぁ。
割り振ってやってたんだよ、仕事を。
バランスよくってぇか、こう、皆が困らないように。
そりゃ上手だったんだから。
それが、Evolution(進化)? この騒ぎが始まって以来……。
皆がルール違反をやらかすようになっちまった。
もうお前らの言うことは聞かないってんで、勝手に客と話をつけてさ。
やたら安い値段で物を売ったりさぁ、相手を邪魔して仕事を奪ったり。
それがEvolution(進化)。
要するに、平和だった裏の世界をまた元の戦争時代に戻そうってわけだ。
……あぇ? ああ、戦争時代か。
そうねぇ、今から……20年、いや30年くらい前かな。
この町はねぇ、戦場だったんだよ。
もちろん、もののたとえさ。
ぱっと見は普通の町だ、別段軍隊が動いてたわけじゃない。
でもねぇ、裏じゃあ、そこら中の組織やフリーの連中が戦争をしてた。
今持ち上げられてる自由競争ってやつが徹底されてた時代でね。
小さな仕事から大きな利権まで、色んなものを目当てに争いが絶えなかった。
たくさん死んだよ。
友だち、ダチの親、ゴロツキ暮らしの先輩に、名前も知らないようなお偉いさんも。
おいらはその頃まだガキだったがね。
10代前半、ティーンエイジャーってやつだな。
それでも世間を憂いてたもんだぜ?
外を一歩歩くにも気が抜けないような危険が日常。
今の平和からは想像もできないような世界が、この裏通りにはあったんだよ。
表通りにも危険はあったか知らないが、そっちのことはわからねぇ。
とにかく、今はいい時代だってことだ。
そう、つい最近までは、ねぇ……。
Evolution(進化)を謳ってる奴らは、昔に戻るわけじゃないと言ってる。
競争しながらも、昔のようにのべつ幕なし争う世の中にはしないんだそうだ。
そこが『進化』なんだと。
戻るんじゃなく、時代を進める革命だ。
……どうだかね。
おいらぁ違うと思うけどね。
ふぅ……。ため息も出るってもんだ。


耳鳴りが始まった。
最初はかすかに。徐々に大きくなる。


どうしたぃ? 具合でも、悪いのかい?
平気ならいいんだ。
話を続けよう。
今の状況について、話しておこうか。
今この町は群雄割拠……とまでは行かないが、それに近い状態だ。
昔は誰もが『カンパニー』や、それに近い規模を持った他所の組織に従ってた。
今はだんだん、それがぐちゃぐちゃになってきてる。
小さかった勢力が急に力をつけたり、老舗が消えたり。
『カンパニー』はいまだに最大手だがね。
もう昔ほどの権勢はなくなって来るんじゃないかね、そのうちにね。
寂しいねぇ。
皆が安心して町ぃ歩ける暮らしが遠くなってく。
今はね、裏社会は『進化』一色。
ジジイもガキも、女も、皆、進化だ、革命だって騒いでるよ。
ま、先を見る目のある連中なんかはね。
そのうち、大きく二つに分かれるんじゃないかって話してるんだそうだ。
Evolution(進化)バンザイの奴らと、平和を守ろうって派閥にね。
おいらかい?
どっち側につくかって言われりゃ……へへ、そりゃあ……。


突然、激しい痺れが襲ってくる。


……薬が効いてきたようだね。
ちょうどいい。あっちの運ちゃんも眠ってら。
眠くもならぁな、きっつい酒選んで出してやったからなぁ……。
……。
Evolution(進化)って言葉を最初に言い出したのが誰かはわからない。
けど、確かに言えることはあるよ。
実際、それはちょいとした革命の始まりだったってことさ。
Evolution(進化)に賛成してる奴が皆、味方どうしだと思ったら大間違い。
敵どうしの方が多いんだ。
よく考えてみりゃ、すげぇだろ?
敵味方関係なく恩恵を受けられそうな大騒ぎ、それがEvolution(進化)だ。
……あんた、おいらがEvolution(進化)を嫌ってる、って思ってるだろ?
そりゃそうさ、そう聞こえるように話してたんだからな。
ねぇ旦那、聞こえてるのかい?
革命なんだよ。
でかいでかい『カンパニー』に首絞められてたおいらたち貧乏人が、よ。
金持ちになれるかもしれねぇんだ。
このままうまく行ってくれりゃあ、な。
そのためには、な。
あんたみたいなブン屋さんにかぎまわられちゃ迷惑なんだとよ。
うちに頼みに来たんだ……。
どこぞの小さい弱小組織の若い衆だってよ。
どんな組織か知らないが、そうとうヤバイことしてるんだな。
あんたみたいな馬の骨にまで手を下すんだから。
へへへ……。
やばいことしてりゃしてるほど、儲けも多くなりそうじゃないか。
『カンパニー』様が全能の支配者のままじゃ、そうもいかねぇだろうが。
これからは違う。
もう『カンパニー』の言うことを聞かなくたってつぶされないとこまで来てるんだ。
小物が大物になれる世の中が来る。
もうすぐそこだ。
そのために今何ができるか、さ。
今は小さい組織でも、恩を売っときゃ、何かの際にはこっちもご相伴に預かれる。
それがおいらがあんたを売った理由。
単純だろ?
乗ってみたくなったのさ、その『進化』ってぇのに。
動けねぇよな? そりゃそうだ。
その薬は効くぜ?
さっきやったドラッグさ。ありゃ麻薬じゃなくて毒薬なんだ。笑えるだろ!?
お前も一緒に飲んだのに何で平気なんだ、って顔してるな。
へへへ、それはな、俺が酒を飲んでないからさ。
そいつは酒と混ぜると毒になるんだ。混ぜなきゃ死なない。
変わった薬らろ?
ありゃ……ひらがひひれてきやあ゛った(舌が痺れてきやがった)。


語り手は首筋に何かを押し付けている。
先端に針のついた、3cmくらいの、チューブのような容器?


……。
ああ、これでよし。
へへ、この薬、酒と混ぜなくてもちょいと痺れが出るんでね。
合成ドラッグでも入れてやれば治るんだけどな。
さて、それじゃあもうサヨナラだ。
悪く思ってくれるなよ。
運が悪かったのさ、それだけだ。
あばよ、逝っちまいな。


次の瞬間、鈍い殴打音が一発。

語り手:タクシーの運転手 ( 男性 )


……危なかったな、あんた。
もう起きてもいい。
冷や汗が流れてるぜ。ほら、拭きな。
俺が言ったとおりだったろ? やっぱり命狙われたじゃねぇか。
酒と茶をすり替えてなかったら、今頃お陀仏だぜ。
うまく相手がシェイカー落としてよかったな。おかげで無理なくすり返られた。
しかし名演技だったな。
本当に死にかかってるみたいだったぜ。
軽く打ち合わせただけだったのに、よくやったな。
……ん?
ああ、こいつか? いや、死んじゃいないぜ。
ほら、唸ってるだろ。声が出せるのは生きてる証拠だ。
さすがに一発で人が殺せるほど俺の腕っ節も強かねぇよ。
ま、後頭部を椅子でいったからな。ちょっとはやばい、かも、しれない。
まぁ、いいさ。
とにかく、今は他人の心配より自分のことだろ?
今回は俺がいたからまだいい。
でも俺だっていつでも暇なわけじゃないぜ。
そういつもいつもあんたについてきてやるわけには行かない。
これに懲りて、そろそろこの件からは手を引いたらどうだ?
……まだ聞いて回るのか、Evolution(進化)のことを。
しょうがねぇな、あんたの好奇心は猫よりひどいぜ。
ま、死なない程度にやれよ。
大丈夫か? 立てるか? 痺れが出てるんだろ?
へぇ、歩けるのか。
意外とタフだな。
さぁて、とっととずらかろう。
警察? 呼ぶわけないだろ、こいつが。
この酒場自体が違法営業だ。違法ドラッグもかなり置いてるしな。
通報したら、即、こいつの方がパクられちまうよ。
気にすんな、行こうぜ。


店を出て行く足音が二人分。
店内には、先ほどの語り手がかすかにうめく声。


それにしても……あんたがもし本気なら、これからは長い戦いだろうな。
今からあんたが調べることのうちいくつかは、確実に裏社会の奥に関わってくる。
そこに生きる連中には知られたくないことが山ほどあるだろう。
今回がそのいい例だ。
また危ない目に会うぞ。
それでもいいなら、続けるこった。
ここはひどいところだぜ。
どれほどの犯罪や暴力が目の前で起こっていても、それを止めるやつはいない。
だから、被害者になったときは観念するんだな。
その変わり、この町の連中は皆、どんな悪さをしても目をつぶってくれる。
やばくなったら相手を刺してでも切り抜けろ。
俺に言えるのはそれだけだ。


ばたん、タクシーのドアが閉まる音。


さぁて、お客さん、どちらまで?
……あン?
まだ他を当たる気か? 薬で痺れてんだろ?
正気かよ……。
はいはい、運んでやるよ。
行きたいところへお客さまをお運びするのが俺の商売だもんな……。
おっと深夜時間だ。料金割増、よろしく。
じゃあ、行きますか。
焦るなよ。
勝負はこれから。じっくり攻めなきゃ火傷するぜ。
Evolution(進化)という名のRevolution(革命)は、まだ始まったばかりだ。




機械の電池切れのため、録音はここで切れている

現地報告はまだまだ序盤

あるジャーナリストの奔走はこれからも続く

Fin.

EXIT  TOP



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