■ NO EVOLUTION!

きっかけを創った。 舞台は整った。 役者もそろえた。

あとは――――

「偶然の神様がどっちに惚れるか、だ!」

目の前で寝そべる貼り紙にインクをぶちまく。

面白くなってきたじゃないか。さぁ、ゲームを始めよう。

何にだって反対する奴はいるだろう? 考えろ。 いつだってそうだ。変化が起きるたびにくり返されてきただろう?  変わろうとする者と、変わりたくない者たちの争いが起きた。 変りゆく者と、変われない者たちの争いがあった。 大きなものから小さいものまで似たような争いばっかりだ。 わかるだろ。 歴史書の時代だろうが現代だろうが、大した違いなんかねぇんだよ。

『進化』と呼ばれる大変革が激しさを増していく。 そして、進化反対を掲げる連中が現れた。 予想内だ。 むしろ、ここはそうこなくちゃつまらない。  NO EVOLUTION!  ひそやかに、だが確実に、シュプレヒコールが叫ばれ出した。 進化せよ、と同じくらいに声高に。


EVOLUTION or NO EVOLUTION? お前はどっちだ?


運命を唱える奴がいる。 仮に、だ。 運命なんてものがこの世にあると言うならば、そいつはどっちに惚れると思う? もしもお前が運命を決める女神様だったら、どっちに口説かれたい? 俺か、それとも。

新たな時代を求める奴らと、古き良き時代にしがみつく奴らがいる。 どっちでいいさ、本当はどちらも似たようなものだ。 両方とも、結局は踊っているだけのちっぽけな連中にすぎない。 踊りの舞台は、この俺様の掌の上だ。

『進化』の波に踊らされ、じたばたともがけ。 俺と仲間たちは波に乗って、溺れる連中を追い越していく。 俺たちは新しき者。 『進化』の前でもなく、後でもなく、ただ『進化』そのものを求めて生きる!

荒波、炎、色々な例えを与えられた EVOLUTION という名の激動を ――

 楽しんで、  誰よりも強く、  深く、   溶け込み、
 駆ける。   飛び込む。    味わう。  燃える。

『進化』の一部として、『進化』そのものとして。

机の上に視線を落とす。 「NO EVOLUTION!」の貼り紙が、嫌味ったらしく俺を見返してきた。

厚かましいが、面白いやり方だろ?  ガードたちの目をくぐり抜け、わざわざ俺の机に置いて行ったらしい。 このビラを見つけたときは、馬鹿げた話、なんだか嬉しくなった。 気合の入った事しやがってと笑いながら手に取ろうとしたら、はがれないんだ。 薄っぺらい紙切れがビクともしない。 ご丁寧に、ぴっちり接着されていたってわけだ。

愉快じゃないか!  もしここにあったのが机じゃなく、俺の身体だったら?  プレゼントが貼り紙じゃなく、ナイフや弾丸だったら!  王手チェックメイト。 俺は舞台から転げ堕ちる。 このスリル。

「た〜まんねぇな」

浮かれて言ったら、仲間の一人である痩せぎすの代理人エージェントがしかめっ面で説教をたれた。

「面白がってる場合じゃないでしょう、ちょっとは焦ってくださいよ。 まったくもう、自分の危機までゲームだと思って……」

ぶつぶつ続ける痩身の男から視線をそらせば、相棒と目が合う。

にやり。 二人して笑った。

「油断しすぎじゃないですか!?」

バン、と机を叩く、心配性のエージェント。 だーから痩せるんだよ、この痩せぎすの男は色々と気を回しすぎる。 こいつは根がマジメだからな。 オモシロ集団と化していく仲間たちの中で、ほぼ唯一の良心(?)となりつつあるし。 そこがいいところなんだが、やっぱりうるさく感じることもある。

わかってるに決まってるだろ? そうだよ。お前が言いたいとおりだ。

安心するな。うぬぼれるな。落とし穴はすぐ側にある。 だけど、な。 どうあがいても一度の人生、負け犬も勝者もいつかは果てる。 もたもたするな。おびえるな。だらだら生きてる場合じゃない。 このゲームにリセットはない。 だったら、いや、だからこそ、好きに生きるんだ。 楽しまなくちゃあ。 違うか?


お前は、どう思う?


「聞いてるんですか!」

殊更ゆっくりと口調を変えて、痩身の男が俺をにらむ。 青白い顔の中でやけに目立つ、妙に力のある眼を持った男だ。 うるせぇなぁ、と思いながらもやはり楽しくて、俺はまた笑っていた。

「やることはちゃんとやってるだろーが。あとは……」

笑い混じりに言い訳をして、引き出しからインクの瓶を取り出した。

「偶然の神様がどっちに惚れるか、だ!」

俺は、目の前で寝そべる貼り紙にインクをぶちまいた。 面白くなってきたじゃねぇか。 さぁ、ゲームを続けよう。 きっかけは動き出し、舞台は広がり、役者も輝きを増す。 シナリオは俺の手を離れた。 今となっては俺もまた、この『進化』の一部だ。俺こそが、『進化』そのもの。

「ボス、本当に聞いて……」
「ちょっと待て、これは!」

俺の声にさえぎられ、痩身の男が口をつぐんだ。

「おーぃ、偶然さんは人間で言うとたぶん女の子だぞ、これ」

楽しげに俺が指させば、痩せた男はキョトンとした表情になった。

「どぉれー?」

顔に笑みを浮かべながら、のぞき込んでくるのはやはり相棒。

「N、E……、O。ネオ(新しき〜)ねぇ」

にやつきながら、さすがに俺の意を汲み取る。長年の付き合いってのもなかなか侮れない。

「はぁ? 何がです?」

近寄ってきた痩身の男に教えてやった。

「偶然の女神さんは女の子だから、俺に惚れてんだよ。ほら見てみろ」

俺は半分以上が真っ黒に濡れた「NO EVOLUTION!」の貼り紙を指さす。 考えもなくぶちまけたインクが、傑作な偶然を産み出していた。

流れたインクが残した文字は、『N』、『E』、『O』、そしてEVOLUTION(進化)。 新たなる存在、俺たちへの粋なメッセージか。 それより、美人の女神様から俺へのキスだろ。


――――NEO EVOLUTION ( 新たなる進化 ).

Fin.

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Thanks for your request! お題は「ネオ」でした。
小雪 夏さんに捧げます。

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