………と、思うなら抱くな。
なんて指摘はなしにしてくれ。
あんたに言ってんだよ、そこの、そう、あんたに。
残念なことに、生まれつき女癖はよろしくない。
血が騒ぐ、という言葉がある。
まさにあれだ。女と見れば騒き始める。
ちょいといい女ならばなおのこと。自分でも嫌になるほどだ。
だが、俺の親父も爺さんも皆、そうだったらしい。
これはもう血が悪いんだと言うしかない。
何てのは、ただの言い訳にすぎないんだが。
背後で、女が異変に気づいたようだ。
ベッドから飛び出ようとして、そのまま床に。
頭から落ちたのか、鈍い音が響く。
「なぁに、痺れだけだろ。女狐さんよ。」
最中にこっそり掠め取った女の指輪の飾り石を、倒れた女の目の前に落としてやる。
もちろん、石の中に仕込んであった薬は使用済み。
女がギョッとした顔で俺を見上げる。
ついで、その顔がもう、般若のような表情に変わっていく。
さっき表通りで見た普通の女の面影はもうない。
あーあ、まったく。
どうせ綺麗に化けるなら、最後まで化け続けるプロ根性ってもんが欲しい。
「当然、飲んでねぇよな……、アルコールは。」
女が眼をむいた。
「随分と良心的な毒を用意したよな。酒を飲まなきゃほとん、ど……。」
舌がもつれる。
そりゃそうだ。わずかとはいえ俺も飲んでしまった。
喉が渇くぅ、と甘ったれた女に、冷たい水ごと思いっきり口移しで飲ませてやったのだから。
酒さえ飲まなければただの痺れ薬。
この界隈でこういう手口を使う奴らは、そんな毒薬を使うことがほとんどだ。
なぜって?
もちろん、真っ最中に自分が口にしてしまっても安全なように、に決まってる。
今回もそれと踏んだのに自信はあったが、この形相は当りだな。
「ああ、」
ふと、思い出した。
「さっき俺が飲んでたのはウーロン茶の水割りだ…。本物そっくりの色してただろ。」
次からお前も使いな、と言い残して。
背後の罵声を聞きながら、俺は、明るいホテルの部屋を後にした。
まさかとは思うが、あの女は酒を飲んでいただろうか。
まっさか。
俺は自分の考えを一笑した。
よっぽど自信過剰な大バカでもない限り、そんなことはしない。
まずまず腕のいい女だったようだから、大丈夫だろう。
その女が、それはそれは大丈夫であったことは、数日後にわかった。
たまたま馴染みの店ではち合わせて、いきなり一発、鋭い針がついたダーツを食ら
わされたからだ。
薬は塗っていなかったが、腕に刺さってけっこう痛かった。
女ってやつは、怖い、怖い。
憤怒の形相で店のドアを叩きつけて、女は出て行った。いたって元気そうだ。
火遊びの罰、かねえ。
腕の血を吸い出しながらそんなことをぼやいていたら、仲のいい若い奴が俺の心臓
辺りを小突いて言った。
「そろそろどうにかするべきじゃないすか。この、タチ悪い血を!!」
そいつのウェーブがかった金髪頭を、べし、と叩く。
「それができりゃ、苦労はしねえんだよ。」
苦笑交じりに言った俺は、自分のために女主人が出した料理を一口食べ、思い切り
噴き出した。
とんでもなく塩辛い。
「まぁた女泣かせた罰だよ。あんたは、ほんとにもう。」
女主人が豪快に笑う。
ご、誤解だ……。
震えるほど塩辛い料理の味は、たった今すすった、俺の血の味に似ていた。