ぼんやりと目を開く。
早朝の陽を感じながら、しばらくの間、ぼーっとしていた。
薄っぺらいカーテンはたいして日除けの役には立たない。
黄色い布地が、かえって光を美しくしているような気がする。
寝床から這い出て、まずやるのは洗顔と髪を整えることだ。
だらだらと洗面所に向う。
洗面台の前に立つと、鏡の中に『兄貴』がいた。
「うわ……。」
今朝見た(ような気がする)夢のイメージが。
転げ落ち、砕かれる痛みと甘さのイメージが、不意に湧きあがってくる。
鏡の中では、この家にいない兄とそっくりな自分が、嫌そうな顔でこちらを見つめていた。
兄の記憶は新しいものほど不確かだ。
子どもの頃はいつもべったり一緒にいたから、その頃の記憶は鮮明である。
しかし、成長し、大人になった兄はほとんど家にいなかった。
したがって新しい思い出の中の兄であるほど、どんな顔だったか、どんな様子だったか、あまり記憶にない。
「……はあ。」
ため息をつき、蛇口をひねった。
勢いよく流れる水で顔を洗うと、かがんだままで視線だけ鏡に向けた。
上目遣いで自分を見る、鏡の中の自分。
髪の毛を黒く染めたのが失敗だった。
先日、急に思い立って髪の色を変えてみたのだ。
特に意図があったわけじゃない。ただ、なんとなく変えてみたかっただけだ。
そもそも、黒はもともとの自分の髪色である。
いつも赤系ばかりだったから、たまにはまったく違う色にしてみようか、と思っただけだった。
真っ赤や深紅、茶色っぽい赤と変化はつけていたが、さすがに飽きてきたのだ。
だが、これは失敗だ。
げんなりと鏡の中の自分を見つめる。
生まれながらの髪の色にしてしまったため、そっくりになってしまった。
髪を染めていない、いつも一緒だった頃の兄と。
いなくなる直前の兄は茶パツになっていたが、はっきり覚えているのが黒髪の姿だからしようがない。
そっくり兄弟の名に恥じない激似っぷりは昔からだが、なにもここまで似る必要はないだろう。
これでは、まるで、コピー。
そう思うと急に不機嫌になった。
乱暴に水音を立てて顔を洗い、手ぐしで荒っぽく髪を梳く。
いらいらする。
それでも少し髪形を整えなおして、その場を去った。