それは暑い日の出来事だった。
本日快晴、まぶしい日差し。
カラリと晴れた夏空には雲一つない。
「それじゃあ、行ってきます!」
若者は元気よくアジトを飛び出した。
にぎやかな町の中心街、その一角にある古いビル。
ごく普通のオフィスを装った彼らのアジトはその3Fにあった。
エレベータに飛び乗る若者の背中を女性の声が追う。
「本当に大丈夫なの? 少し休んだら?」
チームリーダーの声だ。
彼女はオフィスの出入り口からエレベータホールに身を乗り出している。
心配そうな上司の言葉に若者は笑顔で答えた。
「だーいじょうぶですよ、まだまだイケますって!」
しかし、その目の下には薄いくま。
顔全体にも疲労の色が漂う。
「本当に平気なの? 無理だと思うなら早めに言って!」
エレベータの扉が閉まる寸前、女史はまた声をかけてきた。
「平気です! 行ってきます!」
閉まりかけた扉の隙間からガッツポーズを見せる。
だが、扉が閉まりきったとたん、若者は大きく息を吐いた。
それから何かを数えるように1、2、3……、と指を折っていく。
12を数えたところで指は止まった。
「12日目か……。」
悲壮な表情で天井を仰ぎ、独り言をこぼす。
数えていたのは連続で働いてきた日数だ。
最後に取った休暇は先々週の金曜日。
それから11日もの間、休みらしい休みを取っていない。
今日を含めれば12日間ぶっとおし。休憩も睡眠も十分ではなかった。
体力には自信がある。
しかし、さすがに疲れてきた。
だったら休めばよさそうなものだがそれができない。
『どうだ、まだイケるか?』
そう言われると、どうしても「イケます!」と答えてしまう。
『できるか?』
そう問われると、どうしても「できる」と意地を張りたくなる。
まったくもって損な性分だった。
エレベータが1Fに着く。
若者はビルの出口をくぐりながら、腕時計に目をやった。
時刻は午前10時過ぎ。
急がねばならない。
別のチームから応援の要請があったのは20分ほど前のことだった。
ミッションは『救出』。
同じ組織に属する者たちの数名が対抗組織に捕われてしまったのだという。
やっとのことで監禁場所を特定したのが約30分前。
監禁場所は、今は使われていない製薬工場の建物だそうだ。
なにせ広い建物なので捜索には手間がかかる。
なるべく人手が欲しいということで、若者たちのチームにも応援を頼んできたものらしい。
メインで動くわけではない。ただの手伝いだ。
ならば、疲れて本領を発揮できそうもない今の状況でも何とかなるだろう。
そう考えながら若者は現場に向かう車へと飛び乗った。
運転するのは同じチームの仲間。
若者は助手席に座り、シートを倒す。
「着いたら起こして〜。」
それだけ言って、若者はスイッチが切れたかのように目をつぶった。