建物の中は、嫌になるほど豪華な造りだ。
落ち着いた感じの調度品が多いにも関わらず、なにやら、ぎらぎらとした印象が強い。
大都会の某所にある、高級ホテルである。
一台のタクシーがホテルの前に止まり、黒い男が降りた。
力強いまなざし。黒い瞳。深い黒の髪。
その上、スーツも靴もみな黒一色だ。全身が一個の影のようでもある。
特に目立った服装でもないが、かなりの存在感だ。雰囲気だけでもただ者ではない。
ここのホテルにやってくる客はほとんど高級外国車か黒塗りのタクシーを使うが、
この男はなぜかごく普通のタクシーでやってきた。
男を出迎えるため、ホテルの中でずらりと従業員が並ぶ。
支配人らしき初老の男性が、タクシーのドア前でにこやかに男を出迎えた。
男がドアをくぐった途端に、ホテルのロビーにいた若い女性の団体客がそろって嬌声を上げる。
どうやら、上流階級のお嬢様たちにもよく知られた顔らしい。
男は女性客らに向かって、にこやかに手を振った。
続いて同じタクシーを降りたのは、妙な帽子をかぶった男だ。
黒服の男の後を追うようにホテルに入る。
黒服の男の側近、もしくは相棒というところだろうか。
帽子からはみ出した、ゆるいドレッドの末を広げたような髪形が特徴的だ。
帽子とサングラスのせいで彼の表情はほとんど見えない。
だが、にかにかと笑っているようだ。
相棒風の男は、いつまでも女性客らに手を振ったまま動かない黒服に追いつくと、
自分も微笑みながらつかつかと女性客らに近寄っていく。
と思ったら、
「なぁにやってんだよ。」
黒服の男が、後から来た男の襟首をひょいとつかんで、エレベータの方に引っぱっていった。
「な、何だよ、お前ばっかいいカッコして、手とか振っちゃったりなんかして……。」
相棒風の男は不満の声を上げながらずるずると引きずられていく。
その姿を見送りながら、女たちはきゃあきゃあとさざめいていた。
ホテルの前に、黒塗りの高級外国車が音もなく滑り込む。
ホテルマンが車のドアを開くと、SPを引き連れ、恰幅のいい中年の男が降りてきた。
実に身なりがいい。企業のトップか政治家か、それとも裏社会の人間か。
いずれにせよ要人であることには間違いなかろう。
連れらしき二人組に大きな荷物を持たせている。
ホテルの支配人らしき初老の男性があわてたようすで出迎えにやってきた。
SPの一人が、なにやら支配人らしき男性に耳打ちする。
恰幅のいい男は、六階のスイートルームに案内されることになった。
エレベータの前で係員が荷物を受け取ろうとした。
だが、二人組は無言で拒否を示す。
結局その荷物は、他人に預けられることなく運ばれて行った。
それは大切そうに。
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