■ The reportage


その言葉を最初に使ったのが誰だったのかはわからないが。
少なくとも、何かが起きている。
それはすでに、裏社会のみならず知られることとなっていた。
ある時期を境に、裏社会にこんな言葉が叫ばれたのだ。

進化せよ。

合言葉のように広まった言葉。
そこから【Evolution】とあだ名された、裏社会の大変革が始まった。
どんなに小さな関わりでも、裏とのつながり持っていた者ならば、全て。
誰もが知ることになった、激しい動きの時代。

【Evolution】

合言葉は『進化せよ』。今こそ、進化を遂げる時。
人々の動きは、一斉に始まったと言っても過言ではない。
だが、【Evolution】の立役者たちの動きは一様ではなかった。
ほとんどの者は、わかりやすい行動を取る。
ひとつ。
ボスに従い、ボスの利益になるようにのみ動き続ける者。
機械のように、ただ仕事をこなす。
たとえそれがどんなことであったとしても。
ふたつ。
立身出世を夢見て、実力を示さんとする者。
それは個人営業の暗殺者であったり、諜報者や密売人であったり。
果ては弱小組織まであったりとさまざまだ。
今までスポットライトを浴びることがなかった者たちがのし上がろうとしている。
この危険きわまる『進化』の波を、絶好のチャンスに変えて。
みっつ。
ボス、首領、ファーザー、社長……呼び名はさまざまな者たち。
底辺や現場での争いとは別に、遥かな高みでも壮絶な戦いがあった。
ダークサイドに君臨する百戦錬磨の猛者たちが動いたのである。
今こそ、全てを手中にせんとして。
上の三つは、立役者たちの立場が違うために全く異なって見える。
だが本質は一つ。
自分自身か、自分のボスや組織。そんな「誰か」に力を集める動きなのだ。
力を。
財力を。
権力を。
破壊力を。
全て、全てを集めるための、静かで凄まじい動き。

ところが、だ。

不思議なことに気づいた男がいた。
上の三つに当てはまらない、目的不明の活躍を見せる者たちがいるのだ。
闇に葬る、表にさらす、方法に違いはあれど、謎の彼らは一流のプロだろう。
謎の彼らの行動には、一見、何か目的があるようにも見えた。
しかしよく調べていくと、誰も得をしていないのである。
その活躍も暗躍も、誰かに力を集める役割を果たさない。
むしろ、力を分散させているように思える。
力を、拮抗させているようにも見える。
わざと各々の実力差を無くして、結果的に何が起きているのか?
わかりきったことだ。
チャンスを持つ者が増えたのだ。他との力の差が小さくなれば当然だろう。
間接的に、争いを増やしているとも言える。
だからと言って、武器や情報を売る者が得をするわけでもない。
中には少しくらい儲けた者もいるらしいが、大きな動きは全くないのである。
不思議だ。
これらの力を分散させる動きは確かに存在する。
しかも、相当の腕を持つ者や大きな組織でなければ実行できないことも多い。
一流のプロが動くということは、黒幕となる仕掛け人がいるのだろうか。
しかし、仕掛け人だけが利益を得る形になっていない。
では、なぜ?
狙いがあるとすれば、それはいったい何なのか?
仕掛け人がいるなら、その最終目的は?

ここに、不思議なことに気づいた男がいる。
今まさに、彼は一歩を踏み出した。【Evolution】の中へ。
彼は何者か?
裏社会の猛者でもない。
表社会のお偉い方でもない。

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