そは最大の望みなれど、まさに叶う事あたわざるべし。
されば今ここに立ちて、我は唯だ死地を求めるのみ。



つ わ も  の ゆ め



草相撲の草。

鳥に飽きられたかかし。

割れる風船。


実を結ばない、花。
己が摘み取られることを知る。
実を結ぶことこそが最たる望みだが、それが叶わないのならばせめて、この美しさを留めて。
色褪せることなく。
枯れることも、形崩れることもなく。
透明なアクリル樹脂の中に閉じ込められた、花の屍。
骸なのに美しい、あまりにも生きた時のままの花の姿。
死に際、ここにありけり。


浴びたい賞賛の代わりに無難な微笑。

一番欲しい物の代わりに手に入れる、少しだけ控えめな物。

抗えない力の下で夢見るそれなりの幸せ。


幼子の力の限界。
水をためた小さなバケツ、本当は砂場まで運びたいが、あまりに重く遠すぎる。
あそこまでは持っていけない、落とすならここだ。
どうせ達せないのなら、慰めを期待して母親の前で落とす。



第一の望みが叶わぬとき、人は、心を持つものたちは、「その次」を思う。
たとえば、こんな話。
明らかなる負け戦に挑み、散った武士(もののふ)
第一の望みならきっと、味方の勝利、だったのだろう。
しかしそれは叶わなかったから、彼は己の名に恥じぬ死地を求めた。
望みが叶わぬと知ったとき、全ての魂は「その次」を思う。
叶わぬなら、せめて。
叶わぬことは確か、どうせならば、いっそ。
「その次」に望むことは、叶うかもしれないから。
それぞれに、諦めを含みながら希望に満ちる。
第二の望みが叶うことを喜びながら、一番叶えたかった望みを思い出す。
この矛盾。
これも理(ことわり)
そんな理が縛るのは、生きとし生けるものばかりではない。



彼岸に向かうべき軽ろやかな魂を重く繋ぐ足枷。
永い永い時を経て、すでに記憶はすべて朧。
眠りも、生まれし時も、死せる時も、何も、かにも。
怨。
晴らすことこそが望みのはずなのに、もはやその怨みすら思い出せぬ。
廻り続ける終わらぬ現(うつつ)、いつにかや果てん。
第一の望みすらも忘れてしまった魂は、消えかけた想いを探して今日も彷徨う。
廻り続ける終わらぬ明日。
自らを縛る本当の理由、何かあったはずの怨みを晴らせないまま。
想い、叶わぬなら、せめて。
せめて、今ここで望むことを叶えんと。
仲間(霊)と集い、姿を現し、派手に暴れ、笑い。
この世の因果に縛られながら、謳歌するは死後の日々。
やがて、己の名すら忘れ果てた魂は、永劫の中に生きがいと似た感覚を見つける。
無くした想いと、引き換えに。


兵どもが夢の跡、諸行無常の風が吹く。

祇園の精舎、沙羅の双樹、うつろう流れを示す。


うつろい流れるがこの世の定め。
それなのに。
ただここに留まり、立ち尽くす、鎧武者の陰ひとつ。
生命を失いながら、なおもこの世に留まる存在。
彼の骸が土に帰ってから数百年は経つ。すでに果てた戦。なのに彼はまだここにいる。
誰か、言葉を。
賞賛と感嘆の言葉を。
眠らせる言葉を。
口先ではなく、心からの。
彼を眠らせたいのなら、どうか称えたまえ。天晴れ、汝はまことのつわものなり。



そは最大の望みなれど、まさに叶う事あたわざるべし。
されば今ここに立ちて、我は唯だ「その次」を求めるのみ。

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