punisher(処刑執行者)


チャラッチャラッチャ〜 チャラッチャラッチャ〜 チャラララチャン♪

(注 : OPテーマ)


悪の秘密結社ダークマターに襲われた遺伝子学の権威、洋堂教授。
偶然その場にいた一人の青年が、教授を守って若い命を散らした。
誰かの笑顔を守るためなら、後悔なんか、ない……。
彼の死に顔は安らかだった。
その勇気と正義感に感じ入った教授は特殊プロジェクトを決行。
彼を、最強の変身ヒーローへと改造したのである。

「戦う。俺には戦う力がある。
 地球の未来が、みんなの幸せが、俺の手にかかっている!
 そう…俺はもうただの人間じゃない…。俺は……ヒーローなんだ!」

それから何度かの戦いを重ね、彼は確実に成長していった。
今日もダークマターの怪人ヌエガイガーを華麗な技で蹴散らし、決めポーズ。
来週に続く。



−完−



その頃、地下に広がる悪の秘密基地では、幹部たちが集められていた。
「首領の間」と通称される最高軍議室である。

「えぇい、忌々しいヒーローめ!」

怒声一発、幹部も博士も怪人も、いっせいに首を縮めて震え上がる。

「このままでは終わらせぬぞ……。」

ギラギラと、狂気にも似た憤怒の眼が燃えた。
闇の首領様はご立腹である。
世界を混乱の渦に巻き込み、負のエネルギーで満たす。
地球は、力と恐怖が支配する暗黒の惑星に生まれ変わるのだ。
それこそが秘密結社ダークマターの高潔なる目的であると言うのに。
作戦は、ことごとくヒーローの手によって阻止されてしまった。
やはり、敵を甘く見すぎていたのだろうか。
正義だ平和だと戯言を抜かす、偽善者のこわっぱめが、と。
今回もまた、用意した怪人は、どっかーん!とやられてしまった。
ちなみに、これで五度目の失敗だ。
(これが十回、二十回を数える頃になると、
 負け方・怒り方・悔しがり方もパターン化し、迫力がなくなる。 )
一人(一匹?)、ガタガタと止まらぬ震えを隠せずにいる者がいる。
獣人部隊を統べる幹部、獅子怪人の獣王リオギ−ガ。
このたび、連続失敗記録を更新した男(雄?)だ。

「リオギ−ガよ!!忘れてはいまい、我らが掟を!!」

首領の赤銅色に燃え立つ瞳が獣王を捕らえた。
その眼力の前には、獅子の如きたてがみも色褪せて見える。

「無能なる者には、死を持って制裁とする!」

情け容赦のない宣告のお言葉。
哀れな獅子は命乞いをする。今度こそは必ず、とお決まりの台詞で。
だが。
ジャキーン、ジャキーン……
おぞましくも鋭い金属音が響く。
現れ出でしはpunisher(処刑執行者)。
失態を、命によって償わせる者。

「ooooooooh… I’m punisher!」

何でか英語でしゃべる処刑執行者、いや、punisher。
たぶん名前がパニッシャー。
職業もpunisherだけど名前もパニッシャー。ああ、ややこしい。
巨大な首刈り鎌を振りかざし、恐怖の化身が獣王に迫る。
暗黒の闇をまとう、悪のpunisher(処刑執行者)。

「お待ちを!今一度チャンスを!」

獅子が叫ぶ。

「見苦しいぞ、リオギ−ガ!潔く散れぃ!」

首領の怒りは激しい。
獅子は、最後の手段に出た。

「ならば、せめて戦いの機を!
 この手で憎っき奴めに一撃を与える機会をっ!
 我が牙で奴を引き裂くまで処刑を受けるわけにはまいりませぬ!!」

まさに最後の懇願。
言葉の外に、戦いの後ならば処刑されてもかまわぬとの決意があふれる。
一瞬、「首領の間」は静寂に包まれた。
ただ、雄雄しき獅子の怪人が、己の誇りをかけて額を地に擦りつける。
ふっ、と。
笑んだ気がした。鉄の仮面に覆われた、処刑執行者が。
やがて、悪のpunisherは振り上げた鎌を下ろした。
おまけになんか感心したらしく拍手しちゃっている。
あ、帰っちゃった。
首領は、いまだ怒り覚めやらぬ様子だ。
だが、心底嫌そうに、しぶしぶといったふうに頷く。戦闘許可である。
獅子は部屋を出た。首領の計らいに心からの感謝を捧げて。
獣王が出て行った後、幹部の一人、邪賢メデスが首領の下に駆け寄る。

「首領、よろしいのですか?我らの掟に反するのでは。」

小声で、しかしこれ見よがしに。
他の幹部たちに見せつけるかの如く、首領に耳打った。
真の側近にのみ。
真実、首領の信頼を勝ち得たものにのみ許される距離だ。
メデスの問いに首領が応える。

「だって駄目だって言う前にパニちゃん(※)帰っちゃうんだもん。
 拍手してたし、リオギーガに賛成なんだろ、あれは……。」

(※:punisherのあだ名らしい。)
首領様、ちょーっとだけ、パニちゃんが苦手っぽいかもー。


+  +   +   +  +


砂ぼこり、一陣の風。
どういうわけか、全く人気のない荒地で戦いは始まっていた。
獅子と、英雄。
暗黒の誇りと熱き魂の対決だ。
それはそうと、こういう場合、なぜ町や自然のど真ん中で戦わないのだろうか。
三分間しか戦えない某ヒーローなど、わりと電線や森林を破壊している。
これはすごく近所迷惑になり、とても秘密結社の目的に叶うはz アウチッ


( しばらくお待ちください )


ナレーターが謎の一撃に悶絶している間に、戦いは早くも終盤を迎えていた。
ヒーローの体が、紅い輝きに包まれる。

「とどめだ! ハァァ…ッ!
 いくぜ! ギャラクティカ・ジャスティス・シュゥゥゥゥゥゥト!!!

貫かれ、走馬灯を見ながら獅子は思う。
結局は同じだ。
悪のpunisherに処刑されるのも、今果てるのも。
死には変わりない。
だが。
輝けたのではないだろうか?
ヒーローとの戦いで、自分は輝いていたのではないか。
少なくとも、あの場で処刑されるより、ずっと。

「ぐぉおおぉ…… ダークマターにっ、栄光あれぇっ!!」

獅子の雄叫びは、天空に吸い込まれる。
爽やかに。
強く正しく、良い子の味方。限りなく熱血漢、でも、あくまで爽やかに。
ヒーローは勝つ。
必ず。
そして今日も。
轟く爆発音、飛び散る灰塵。
アツいBGMの中で勝利のポーズが決まる。

喝采を浴びなから。

正義のpunisher。
その決めポーズの背中を、生きて見る者はいない。


+  +   +   +  +

「メデスよ。やられたら巨大化するとか、そういう便利なのはないのか?」

「はぁ、そういうタイプの敵じゃありませんから。
 カラフルな五人組じゃありませんし、ロボ無いですし。」

「そんなこと、こだわるなよ〜。」

「Oh,kyodai〜ka,wonderful.HAHAHA!」

「笑ってるよ……(すっげ怖い)」

「笑ってますな……(怖いですな)」

+  +   +   +  +



−完−

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