今だけだ 今だけだから 声を 声を上げて
たったそれだけのことが
なぜ できない?
こらえるな どうせ誰にも聞こえやしない
そう思うのに
自分の手が喉をつぶし 胸ばかりが裂ける

闇に似た 蒼い水 水底の手前
蒼白く儚げな亡霊が
弱いふりの微笑で俺を呼ぶから
「冷たいの、暖めて?」
嘘ばっかり 本当は知っている
見て見ぬふりを決め込めば 今日も
どこまでも逃げる真実が
ただ切ない
理由ならわかっているさ
逃げられないだけ
甘い罠に自ら片足を突っ込んで
気がつけば また 水の中
掴む指を振りほどけない

人知れず叫べ 張り裂けて 千切れるまで
喉を焼く灼熱のたぎり
わかるだろう
耳を塞ぐな
飲み込めば 飲み込むだけ 激昂がつのる
耳無し鳥よ 聞いてくれ
刹那の風が渡るまで

今でさえ 夢の中でさえ 声を 声を止めて
たったこれしきのことで
なぜ ためらう?
おじけるな どうせこれは絵空事だから
うそぶくけれど
俺の喉は枷を探し 言い訳を見つける

果てすらも失った 底無しの狭間
冷え切った感触の白い手が
仄暗い水の中 俺を手招く
「寂しいよ、ここへ来て?」
んで ちゃっかり 繰り糸を縫いつける
無理に我が身をかき抱いて 今日も
いつまでも欠けぬ満月が
ただ虚しい
理由などありはしない
お前が呼んでいる
苦い罠に自ら両足を突っ込んで
気がつけば また 繰り返す
食人花を愛でる通い路

人知れず叫べ この命 尽きるほどに
胸焦がす 朱色の重さ
わかっている
目など逸らすな
隠したら 隠しただけ 借り草が溜まる
盲の虫よ 暴き出せ
黒い太陽 沈むまで


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