幾日、幾月、月日は流れ、ある日、戦争が終わった。
子が出来ていた。あなたが残した子。
人は皆、冷たい目を向けたけれど、口に出して責める者はいなかった。
誰の子で、どんな夜に契りを交わしたのかがわかったから。
生まれたのは男の子。
あなたに似てる。
私の家もよそと一緒で、父と兄たちを軍に取られた女所帯。
母も祖母も、我が家に残った唯一の男子を、一緒になって育ててくれた。
あなたのお母さんも。
お義母さんに、添わせてあげたかったと泣かれたよ。
あなたのお祖父さんは手をついて、私を傷物にしてしまったと謝った。
けど、私は声を張って怒鳴ってやった。
『傷物にしたとは何事か、立派な男の子を残して行ってくれたのに。
祝言なんてあげなくたってあんたの孫は私の夫。私はあんたの孫嫁だ』って。
雪深いこの土地で、私は空を見上げて生きた。
雪が降る。雪が降る。ああ、今夜も恋文が届いたよ……。
どんなに辛いことがあっても、厳しい寒さ、飢え、貧しくて涙が出そうになっても、私は天を仰いだ。
雪が降る冬の季節には、泣かずにすんだ。
重たい雲が見えるから。
ああ、空の上で、今たくさんの恋文を書いているんだなぁって。
冷たい雪が降ったなら、やっと来たかと喜んだ。
猛吹雪の日にだって。ああ、ああ、そんなに戸を叩かなくってもちゃんとわかるよ。
たくさん、たくさんのあなたからの手紙……。
毎日の雪かきさえ、しんどいどころか楽しかった。
こんなにたくさん! 重いな、硬い。ああ、こんなにいっぱい好いてくれたのね。
ありがとう。ありがとう……。
祖母、母、私の女所帯に、あなたのお家に三人きり残った、お祖父さま、お祖母さま、お義母さん。
終戦からしばらく経って、二つの家族は一緒に暮らすことになった。
私とあなたの息子が結び目になって、両家の縁を結んでくれたよ。
花嫁衣裳も着たんだよ。写真のあなたと並んで、三々九度もやったんだ。
もう私たち、文句言いっこなしの夫婦なんだよ。
大安吉日。二年遅れの祝言をあげたのは秋も深い十月のこと。
驚いた。あんな早くに初雪が降るなんて。
祝言の、その晩にね。ほた、ほた、水っぽい柔らかな雪。ほたり、ぼたん雪。
優しい手紙だったね。ありがとう。恋文を、ありがとう。
幾年、幾十年、月日は流れ、時代はすっかり変わって行った。
辛いこともあったけど、なんとか越えていけるもんだね。
あの日、若さを嘆いたあたしも、今じゃすっかりおばあちゃん。
あんたの息子は立派に育って、とびきりのお嫁さんをもらってくれたよ。
優しいお嬢さんでね。「お義母さん、どうぞ」なんて、色々よくしてくれるんだから。
おまけに今日は、すごいことを知らせてくれた。赤ちゃんが出来たって!
うふふ、もうおなかの中にいるんだよ。
あたしも年をとるはずだねぇ。だって、孫が出来るんだから!
ああ、可愛いだろうねぇ。
きっと、あんたにもあたしにも、息子にもお嫁さんにも、よく似ているはず。
ねぇ、見える?
春だねぇ。桜がこんなに咲いている。
ずっと春は嫌いだった。
雪が、降らなくなってしまうから。
積もり積もった恋文が、融けてしまうから……。
ああ、こんなにおめでたい日なのに。
悲しくなってきちゃったじゃないの。嫌だ、涙なんて、流したくないのに。
ザザ――――――――― - - -
急に風が……、あらあら、髪がボサボサ。
ザ、ザ、ザ――――――――― - - -
あ、あ、あ。
雪。
雪みたい。
夕日の落ちた薄闇の空いっぱいに舞い散る花びらが、青白く見えて、まるで、雪のよう。
恋文が届く。恋文が届く。ひらひら、はらはら、落ちてくる。
花びらが舞う。桜が舞う。いつかの雪とよく似てる。
ああ、きっと、この桜吹雪は、あなたからの……。