「誰かいますか……」
返事は無い。
個室はどちらも空いていた。洋式だった。
トイレの入り口には、ちゃんとした洗面台もついていた。
他には特に変わったものも無かったので、トイレから出た。
ぐぅ、と腹が鳴って、おなかが空いたと思った。
ためしに自動販売機から、カップラーメンとビールを買ってみる。
熱湯を入れて、箸立てから箸を取って、3分経った頃にフタを開いた。
ものすごくおいしそうな香りが立ち上る。うーん、たまらない。
いただきますの挨拶もそこそこに、勢いよくすすり込んだ。
お馴染みの、だけれどそれはそれは美味な味が広がる。
ビールもよく冷えていた。
カップラーメンは、一気に汁まで飲み干すほど美味かった。
カップメンの自販機にはうどんやそばやスパゲティもある。
しばらくここで過ごそう、とソファに座った。
はっ、と気がついた。
のんびりしている場合じゃない、部屋に入れなくなったんだった。
これからの日々を、何日かは忘れたけれど……
いや、何ヶ月、何年、どのくらい過ごすのかもわからないけれど。
とにかく、あの部屋の中で暮らすはずだったのに。
何とかしなくちゃいけない。
急いで立ち上がり、大急ぎで自分の部屋の前に戻った。
戻る途中、エレベーターらしき扉をもう一度眺めた。
やっぱり気味悪く思えた。
あれから何日経っただろう。
何度か空腹を感じて食事をし、何度かロビーのソファで丸くなって眠った。
眠るときはカバンやら財布やら、持ち物を腹に抱えて抱いて眠った。
この数日の間に、カバンに入っていた物をいろいろ確かめてもみた。
ドライヤー機能付きの円柱型のブラシ、髪を整えるもの。
食べかけのガム。ここの自販機にはない種類だ。
財布とは別に、お札の数枚貼った封筒。
何だかわからない紙切れ。
『キー、ロックを忘れるな』
紙切れにはメモのようなものが走り書きされていて、
それはどうやら自分で書いたもののようで、
だけれどちっとも記憶にないような、
しかし、どこか記憶につながっているような、
何かよくわからないけれど少し気味が悪かった。
鍵をかけろ、という意味か?
でも今、今、今、いま、今、今、いま、今、いま、いま…なんだっけ。