★ あのね 家から出たら まずは左の道に行くの どんどん行ってまっすぐ行って 最初の角を右に曲がって少し歩いたら そのうち、広場に出るんだよ 広場の奥には大きな木があるから その木の真南に立って、まずは南に30歩 それから東に40歩だよ。ほら、地図をあげる 赤い×印が目印だから、絶対、絶対、探しに来てね ||||||||||||||||||| ■■■■■■■■ ■■■■■■■■
ちょっと懐かしい雰囲気の夢を見た。 といっても、本当にあった記憶ではない、と思う。 誰か知らない、不思議な女の子と宝物の隠しっこをして遊ぶ夢。 それぞれに隠した宝物への地図を書いて交換して。 夢の中、僕が隠した宝物はBB弾で撃つおもちゃの鉄砲だった。 夢に見た不思議な少女。 彼女が隠したのは、いったい何だったのだろうか。 目覚めた瞬間から少しずつ、夢の記憶は薄らいでいった。 やけに色白な彼女の優しげな面影がおぼろげに消えていく。 しばらくの間、ぼんやりと夢の面影を追っていた。 寝覚めの頭にかかった靄を晴らすようにあくびを1つ。 もっさりと起き出して顔を洗った。 |
あのね、家から出たら、まずは左の道に行くの。
着替えをして家を出る。 マンションから左の道を歩いて行けば、勤め先はすぐそこだ。 僕はデパートの婦人服売り場で働いている。 それなりに大きくて、それなりに繁盛している店だ。 自宅から徒歩で約20分。 車に乗るほどの距離ではないので、いつも歩いていく。 今日も僕は、寒い空気の中、白い息を吐きながら職場を目指した。 |
どんどん行ってまっすぐ行って、
最初の角を右に曲がって少し歩いたら、
そのうち、広場に出るんだよ。
建物の前に着くと、僕は時計を見上げた。 僕が働く店舗の前はちょっとした広場になっている。 その広場の一角に時計があるのだ。 時刻を見ると、いつもより30分ほど早かった。 出勤時間には少し早すぎたが、そのまま中に入ることにした。 閉店後のための準備を少ししておきたいと思っていたからだ。 今夜、クリスマス用のディスプレイが始まる。 一夜にしてクリスマスムードあふれる店内につくり変えるのだ。 毎年のことながら、忙しくもウキウキしてしまう。 お客様が入る表玄関は広場の真正面。 僕らが入るのは奥の入り口だ。 店の横に回り、奥まった入り口から中に入った。 今はまだ、いつもどおりの店内。 明日の朝には見違えるほどに生まれ変わっているだろう。 |
広場の奥には大きな木があるから、
今日も平和な一日が過ぎ、疲れながらも仕事が終わる。 いつもなら、ミーティングや明日の準備をしてすぐ帰宅だ。 でも、今日はもう一仕事。 店内にさまざまな飾り付けがなされていく。 僕の働く売り場のある階には、衣服以外にも色々な物のブースがある。 それぞれに工夫を凝らし、競うように飾っていくのが毎年の習慣だ。 エスカレーターの横には大きなクリスマスツリーが飾られた。 |
その木の真南に立って、まずは南に30歩。
それから東に40歩だよ。ほら、地図をあげる。
僕のいる売り場からでも、ツリーの上の方が見える。 わりと離れたところにあることを考えれば、かなり大きなツリーだ。 ちょうど手があいたので見物に行くことにした。 おお、デカイ。 僕の身長よりでかい。2m以上ありそうだ。 ひかえめな電飾が、ゴテゴテと飾るよりかえって美しい。 しばらくの間、惚れ惚れと眺める。 やがて、一息ついた僕は、自分の担当場所に戻るためツリーの前を離れた。 ツリーの前からまっすぐ行って、左に曲がって、少し歩いたときだ。 |
赤い×印が目印だから
歩いていると、突然、頭上で「あっ」という声がした。 見上げると『何か』がゆっくりと落下してくるところだった。 危ない、かな? 急いでわきに避けると、軽い音を立て、床に大きな赤い『X』が寝そべる。 「すみませーん!」 脚立の上から声が降ってきた。 「どうした、なんかあったか。」 同期の女をつかまえて尋ねると、彼女は、うん、と困ったようにうなずいた。 「足りないのよ、石。」 そう言って、アレの、と指さしながらつけくわえた。 「へぇ……地図?」 それは地図だった。この階の案内図になっているらしい。
「いいでしょ、本物のカットグラスでできた高っ級ラインストーンでできてんのよ。 そいつはなぜか自慢げに、『高級』を強調して言った。
「目玉はいいけど、石ってどんなんだ?」
指先で作る隙間は、さっき拾った物と同じくらいだ。 「これ?」 キラッと光る石を差し出してやった。 「ああっコレコレ!ヤダ、どこにあったの?ありがと〜!」
彼女は大騒ぎして飛び跳ねている。そんなに飛んだら眼鏡がずれるぞ。 「ちょっ、ちょっ。誰、誰この子?」
同期の女をひっぱって小声で聞くと、彼女はにやりと笑って耳打ちしてきた。 |
絶対、絶対、探しに来てね。
胸を張る彼女を軽く押しのけ、僕はその女性に挨拶をした。
「どもっ、はじめまして。あ、中島と言います。」
薄茶色の髪をかき上げる宝条さんの耳たぶには、ピストル型のピアス。 「アンタ、すごいバカッ面で手ぇ振ってたわよ。」
後日、同期の女が僕に言った言葉だ。
「だから頼むって、宝条さん呼んでよ〜。」
かなりのたくらみ顔で、彼女がにやりと笑う。 |
赤い×印が目印だから、絶対、絶対、探しに来てね。
そこで、待っているから。
絶対、絶対、探しに来てね。