シルクハットにうさぎの耳を生やした手品師が、観客の中から数人をステージにあげた
選ばれたのはくじに当たった幸運な人々。
サーカス小屋に入るときにくじを引いていたのさ。
当たりくじを引いた人だけが不思議の中に入っていける。

当たりを引き当てたのは全部で4人。
1人目は男の子 太っちょの男の子。
2人目はおばさん 気合入れたおしゃれ服のおばさん。
3人目は青年 夢見がちで軽薄な青年。
最後の1人は女の子 白い頬に淡い瞳の可愛い女の子。

手品師が言った。
「君のお願いは何? 何でもひとつ叶えてあげよう。」
太っちょの男の子は言った。
「お菓子をたくさん!」
手品師は笑ってシルクハットをひっくり返した。
下向いたハットの口から、出てきた、出てきた。
ザザザとたくさんのお菓子。
およそシルクハット3つ分。

手品師が言った。
「あなたのお願いは何でしょう、マダム? 何でもひとつ叶えてあげましょう。」
おしゃれ服のおばさんは言った。
「若返りたいわ、きれいになりたい!」
手品師はちょっと考えるふりをしてしかめつらしく杖を振った。
ボッと空中が燃えて出てきたよ チケットの束。
「どうかこれでご容赦を」
ウインクした手品師におばさんは不審そうな顔。
でもチケットを見て笑顔になったよ。
それは高級エステの無料回数券。なんと100万円分。

手品師が言った。
「あなたの願いはなんですか? 何でもひとつ叶えてあげますよ。」
夢見がちな青年は言った。
「空を飛びたい!」
言い終わるか終わらないかに手品師が指を鳴らした。パチンとね。
そうしたら青年はびっくりだよ。体が浮き上がった。
ぐいーっと天井近くまで昇っていってふわふわ浮かんだんだ。
あとは手品師の杖の向くまま。
右に左に空を飛んだ。すいすいと気持ち良さそうにさ。

最後のお客の手を取って手品師は困った顔でちょっと笑った。
「君のお願いは何? 何でもひとつ叶えてあげる。」
可愛い女の子は言った。
「パパにおうちに帰ってきてほしいの」
会場が静まり返った。それぞれに思いをめぐらせて。

この子にはお父さんがいないんだろう とか。
この子のお父さんは出稼ぎにでも行っているのか とか。
この子の両親は離婚していてこの子は母親と暮らしているんだろう とか。
この子のお父さんは死んでしまったに違いない とか。
この子のお父さんは家族を放り出して遊び歩く人間か とか。

その他いろいろ。

手品師は最初びっくりしたような顔をして、それから笑ってこう言った。
「そうか じゃあ今夜は久しぶりにうちに帰ることにするよ。
 いつもサーカス小屋に寝泊りしてばかりだったしね。」
そして彼は女の子を抱き上げて微笑み見つめたんだ。
自分と同じ色の髪をした女の子を、彼女とよく似た淡い瞳で。


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