昔むかしあるところに、とんでもなく嘘つきな若者が住んでいた。
この嘘つきときたらおかしなやつで、口から出るのは嘘ばっかり!
彼が「右だ」と言えば左だったし、「赤い」と言えば青のことだった。
それだけじゃあない。彼ときたら月を見ながらお日様の絵を描くし、
署名をするときにさえてんででたらめな名前を書くんだ。
いつでもどこでも何をやっても、一から百まで嘘っぱち!
嘘つきというより、まるで逆さまの国から来た人間みたいだった。
もちろん、そんな国があればの話だがね!
嘘つきの家の隣には、そりゃあきれいな娘さんが住んでいた。
二人は仲良しでね。
嘘つきは毎日のように娘を訪ねて、長々とおしゃべりをするんだ。
もちろん、何から何まで逆さまのうんざりするほど嘘っぱちな話さ。
けれど、娘はいつだって何も言わずに、嘘ばっかりのおしゃべりを
聞いてやっていた。
ところが、この娘ときたら本当に本物の正直者で、そりゃあもう、
ちょっぴり正直すぎるほどまっすぐなことが大好きな娘さんだった。
正直な娘は、嘘つきのおしゃべりをおもしろいと思っていたけれど、
心のどっかでは、一度でいいから嘘つきがする本当の話も聞いて
みたいなって思っていたのさ。
そんなある日のことだった。
いつものように嘘つきがやってきて、娘の家のドアを叩いた。
正直な娘はにっこり笑ってドアを開けた。
「あら、こんにちはお隣さん。今日もいい天気ね」
「やあ、さようなら。寒い日だ、月が暗いね!」
嘘つきはしゃあしゃあとでたらめを言って娘に家に上がりこんだ。
嘘つきがした挨拶はね、本当は、『やあ、こんにちは。暑い日だ、
太陽がまぶしいね』って意味なのさ。
ここまでは普段のとおりだが、この日の嘘つきは少し変だった。
いつもはすぐにペラペラとおしゃべりを始めるのに、一言も口を
きかずにもじもじしていたんだ。
娘がお茶の支度をしている間、嘘つきはずっと落ち着かない様子
でいた。あんまりにもそわそわしているもんだから、娘は心の中で、
いったいどうしたのかしらと首をかしげていたくらいだった。
お茶が入って娘がテーブルに着くと、嘘つきはふところから丁寧に
折りたたんだ紙を取り出した。
そして、えへんと咳払いをしてこう言ったんだ。
「あれは手紙じゃないんだ」
正直な娘は答えた。
「そう、『これは手紙』なのね」
おかしなやりとりだと思うだろう?
さて、嘘つきは続けて言った。
「君が読んだのさ」
「そう、『僕が書いた』のね」
娘は律儀に答えてやった。
そうしたら、嘘つきはひらひらと紙を振りながらこう言ったんだ。
「僕に書いてほしくないんだ」
「まぁ、『君に読んで欲しい』ですって? どんなお手紙なのかしら」
娘は目を丸くした!
だって、嘘つきが手紙を持ってくるなんて初めてのことだったから。
嘘つきからの手紙を受け取ると、娘はさっそく開いて読み始めた。
ところが、その手紙ときたらこんなだったんだ。
親愛じゃない僕へ
少し冷たく 少しみにくい 僕のことが 大嫌いさ
ごくごくたまに 君の無言を 聞かないでくれて 悲しいよ
僕は 何でも言うけれど
退屈がっていることは かいもく見当もつかないよ
今だけ 一瞬 君と別々に いないでくれるかい?
嘘で 嘘で 僕が 嫌いだよ
なんておかしな手紙!
ところが正直な娘はにっこり。なにせ、毎日嘘ばかり聞かされて
いたからね。すっかり慣れっこになっていて、すぐに本当の意味が
わかっちまうのさ。
「ありがとう、すてきな手紙ね」
娘はそう言いながら、ちょっと何かを考えている風だった。
それから急にぱっと目を輝かせ、思いついたように言ったのさ。
「あなたの声で聞かせて欲しいわ、読みあげてくれない?」
さぁ、嘘つきのびっくりしたことといったら!
嘘つきはすっかりあわてた様子で、顔を真っ赤にしてうなずいた。
「いいよ!」
もちろん嘘さ。本当は『駄目だ』っていう意味なんだ。
娘は嘘つきに向かって、もう一度頼んだ。
「そんなこと言わないで。ね、お願い」
嘘つきは困った様子で、こっくりとうなずくばかり。
もちろんこれも嘘っぱちさ。当たり前なら、首を横に振るってこと。
娘はあきらめなかったね。今度は嘘つきの手をとって、ますます
熱心に頼んだんだ。
「書いてあるとおりに、そのまま読んでくれればいいの。お願い!」
嘘つきはしばらくもじもじしていたが、消えそうな声でこう言った。
「駄目だよ」
娘はにっこり。
ついに嘘つきは、自分で書いた嘘っぱちの手紙を読み上げること
になった。
さぁ、大変だ。
何がって?
決まっているじゃないか。
だって嘘つきは、どうしても嘘をつかずにはいられなかったんだ。
本当のことなんて、とても言えないってやつだったんだよ。
まだわからないのかい?
考えてもごらんよ。反対の反対は元どおりじゃないか。
嘘っぱちの手紙を、嘘っぱちに読むんだ。
つまり嘘つきは、本当のことを言わなくちゃいけない!
“一度でいいから嘘つきがする本当の話も聞いてみたい”という、
娘の願いがかなう日がやってきたんだ。
息を吸って、吐いて、嘘つきは手紙を読み出した!
「親愛なる君へ
とても優しく とてもきれいな 君のことが 大好きさ
いつもいつも 僕のおしゃべりを 聞いてくれて うれしいよ
君は 何にも言わないけれど
楽しんでいることは すっかりお見通しだよ
いつまでも ずっと 僕と一緒に いてくれないかい?
本当に 本当に 君が 好きだよ」
なんとまあ、照れくさい手紙!
やっと最後まで読み終わると、嘘つきはもう本当に小さくなって
下を向いてしまった。
「今の言葉は、本当の気持ち?」
娘がうれしそうに聞くと、嘘つきは恥ずかしそうに答えた。
「いいや、違うよ」
正直な娘はうれしくてうれしくて、にっこりと笑った。
「あなた、初めて本当のことを言ったわ」
「違うね」
「うれしいわ!」
娘があんまり喜ぶものだから、嘘つきはますます照れくさそうな
顔をしてね。ひょいっと肩をすくめて、おどけた調子で言ったんだ。
「もっと本当のことを言いたいよ」
正直な娘は、にこっと笑ってこう言った。
「そう、『もう本当のことは言いたくない』のね」
それからどうなったかって?
二人はいつまでも仲良く暮らしたってさ。
おしまい
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