他人の前に全裸で立てるだろうか。
僕には無理だ。
下着もなしで人前に立つだなんて。そんなのどうかしている。
現実の衣服の話だけじゃない。
心理的にだって同じことが言えるだろう。
「そうでしょう?」
そんなことはないと言えるだろうか?
自分の胸に手を当ててよく考えてみてほしい。
他人と関わるときには心に衣を着せるものでは?
どんなに親しい人だって、親しき仲にも礼儀あり。
ましてや信用できるかどうかもわからない人間に会うのならばどうだろう。
自分の一番無防備な姿を彼らの前にさらせるだろうか。
少なくとも僕には無理だ。
真実を隠して、心に鍵を。
服を。
上着を。
鎧を。
盾を。
己の心を守り、隠すために、心理的衣服を何重にも着こんで真裸の本音を覆う。
そういうものではないか、他人と付き合うということは。
ちょうど良い距離を保つためにそれぞれの心に服を着せる。
ああ、自分は不正直だ、なんて後ろ暗く思う必要はない。
「最初にちょっと言ったでしょう、服を着るようなものですよ。」
これはお互いのためだ。
真裸の心を他人にぶつければ、お互いに深く傷つくこともあるのだから。
そう、リスク。
裸の付き合いには多大な危険が付きまとう。
危険を知った後でさえ、裸のままでいられるとでも?
そんなことはできやしない。
真正直な本音をぶつけるなんて美徳でもなんでもない。ただの礼儀知らずだ。
相手に裸を求めることも、自分の裸を見せることも。
「よく考えればわかるでしょう、そんなの犯罪じゃないですか。」
不特定多数の相手を前に、肉体的に全裸だったら即逮捕だ。
「心理的にだって全裸でいるのは失礼なんですよ。」
そんなことを平気でする大人なんてそうはいない。
少なくとも僕には無理だ。
辛い浮世の人づきあいはとにもかくにも難しい。
全裸でなんていられるものか。武装せずにはいられない。
ああ、それなのに。
「なぜ君はそんなにも自分の何もかもをさらけ出そうとするのです?
これから人目に触れる場所に出て行くというのに、わざわざ服を脱ぐなんて。
君は本当にどうにかしている。」