時は戻って、今現在。
場所は某大型アミューズメントパーク −すなわち巨大な遊園地− に移る。
「なぁ、やっぱりバレるんじゃないか?」
前髪の長い少年が、隣りの友人をつついた。
「大丈夫でしょ、10クラスもあったら全員の顔なんてわかんねって。」
隣りの少年はケータイをいじりながら、ひそひそと答える。
「それはそうだけど。」
最初の少年は落ち着かない様子でちょんと眉間に触れた。
まるで、メガネを上げるような仕草。
この二人、よくよく見ればどこかで見た顔だ。
サクヤとキッドである。
二人は並んでベンチに座っていた。
そろってブレザータイプの制服を着用。
二人の身を包んでいるのは二人が住む地域にある進学校の制服だ。
おそらく変装のつもりだろう。だって二人は学生ですらないのだから。
制服のみならず、二人の姿にはちょっとだけ普段とは違う点があった。
キッドは髪の色だ。
普段の色ならアッシュグレイ。それで制服ではかえって目立つ。
というわけで、今日は黒に近い茶色の髪をさらさらと風になびかせている。
サクヤの方は即席だ。
普段かけているメガネをはずしている。ただ、それだけ。
「そろそろ時間なんだけどな。」
ケータイから目を離し、キッドが周りを見回す。
「本当に来るんだろうな。」
サクヤが小声で言った。
「たぶん。」
キッドがうなずく。
この遊園地が依頼者との待ち合わせ場所。
広い遊園地は二人と同じ制服姿の男女であふれている。
どうやら二人は、中学か高校の修学旅行ご一行様に紛れ込んでいるらしい。
「やっぱバレないか? 教師は意外と覚えてると思うよ、ウチの両親そうだから。」
心配げに辺りを見回して、サクヤが眉をひそめる。
キッドはさっと髪をかき上げた。
「大丈夫じゃないの? 自由行動の間だけだし。
だいたい一人で全クラス教えてるわけじゃねーじゃん。こんだけいたら。」
こんだけ、と言いながら、辺りをさっと見回す。
あたり一面、わらわらわらとそこいら中に散らばる生徒。
パッと見ただけではどれだけいるのか見当もつかない。
「確かに、ね。」
サクヤもうなずく。
それから。
「何でわざわざ、こんなところで待ち合わせなんだ?」
ふと気になって問いかけてみると、キッドは意外なことを言い出した。
「俺がココにしてくれって頼んだから。」
そんなことは一言も聞いていない。
サクヤは、困ると怒るの中間に陥ったときのクセで、強くこめかみを押さえた。
「何で何も教えてくれないんだ。……まぁいいよ。なぜここに?」
サクヤの不機嫌を横目に見てか、キッドはひょいと肩をすくめている。
「見てのとおり。向こうが日にち指定してきたから、ここが目立たないかと思ってさ。」
キッドの言うことは一理ある。
人を隠すなら人の中。
特に彼らの年頃ならば制服を着てしまえば学生にしか見えない。
誰もが同じ服を着て、同じ年頃。
群れの中にまぎれ込んだなら、制服は、森の中の迷彩服のように彼らを隠してくれる。
「どうして、ここが学生だらけだって知ってるんだ?」
「ユキ。」
サクヤの疑問をたったの二文字で片付け、キッドはケータイをパタンと閉じた。
サクヤはちょっと首を傾げたい気持ちになった。
ユキとは人名だろうか。
聞き覚えのない名前だな、と思う。どこかで聞いたようにも思う。
はて、誰だったろうか。
「ユキって誰だっけ?」
サクヤが聞くと、キッドはフルネームを口にした。
「園田由紀。」
サクヤは、ああ、とうなずく。
「園田さんか。まだつきあってんの?」
園田と聞いて思い出したのは一人の少女。
色白でパッチリした瞳の女の子だ。
「当ー然。ラブラブよ〜ん♪」
答えてキッドはニッと笑う。
ユキとはキッドの彼女の名前。
何のことはない。恋人から聞いた学校行事の予定を利用したということだ。
「なるほどね。それでこんな遠いとこまで引っ張ってこられたのか、僕は。」
色んなことがどうでもよくなってきて、サクヤはあきらめの表情。
その隣りではキッドが待ちくたびれた様子で伸びをする。
平和な平和な遊園地。
少しだけ退屈な、人待ちの時間。
「僕の技術でいけるのかな。」
誰に話しかけるでもなく、サクヤがつぶやく。
正直、自信がない。
難攻不落と呼ばれる場所に侵入し、内部を崩すことなどできるのだろうか?
そんな思いが胸の内でうずまいていた。
「お前ができなきゃ誰でも無理。」
絶妙なタイミングの一言がサクヤの弱気を吹き飛ばす。
キッドの言葉が表すのは何だろう。
お世辞? 叱咤? 激励?
たぶんどれでもない。あえて言うなら、信頼だろうか。
「ふっ……。まぁね。」
単純に気をよくして、サクヤはまたメガネを上げる仕草。
「喜んでるとこ悪いけど、依頼者発見。」
キッドの一言で現実に引き戻される。
せっかくいい気分だったのに。よい時間は長く続かないらしい。