少女は名を美奈子といった。
年は十六。
少女と表現はしたが、そう言い切るには少し年が上すぎるかもしれない。
だが、それ以外には表しようがないのだ。彼女はまだ、女と呼ぶには若すぎる。
奇行を見せているのは彼女の義兄だった。
実の姉の夫である。
異変は静かにやってきた。
両親、姉夫婦と同居している家のあちこちで、義兄に会うようになったのだ。
会うこと自体に不思議はない。
ない、はずだった。
廊下の角を曲がったときに。
台所で。
居間で。
自分の部屋を出た瞬間に。
いつも偶然のように出会う。だが、偶然にしては重なりすぎている。
美奈子はだんだん薄気味が悪くなってきた。
いくら同じ家に住んでいるといってもそう何度も顔を合わせるのはおかしい。
他の家族たちとは顔を合わせる回数が全く違うのだ。
遭遇はついに家の外にも及びだした。
学校の帰り道に、出会う。
散歩の途中だと義兄は言う。そして、奇妙に光る目で笑うのだ。
買い物に出かけた先の店で、会う。
偶然だな、と義兄は笑う。若い女性向けの服しか置いていないはずの店内で。
出かける先々にいる。
横を通り抜ける自動車の中にいる。
どこにでもいる。
相手が義兄なだけに、いったい誰に不安を訴えていいのかわからない。
姉に言えるだろうか?
美奈子が下した判断は『否』だ。あなたの夫がおかしい、などとは言えない。
両親は?
笑われるだけではないのか。しかしこのままではいられない。
美奈子は勇気を振り絞って両親に不安を訴えた。
思っていたとおり、訴えは一切聞き入れてもらえなかった。
それどころか、叱られてしまったのだ。
自分の義兄を異常者扱いするとは何事か、と。
不安な日々は続いた。
美奈子の疲れがピークに達した頃のことだ。
ちょっとした事件が起きた。
美奈子に見合い話が舞い込んだのだ。
まだ十六歳。
けれど、美奈子の両親にとっては『もう十六歳』であったらしい。
女の幸せはよい結婚と信じて疑わない両親は勝手に見合い話を進めていった。
見合いの席が持たれたときには、すでに返事が決まっていたほどだ。
形式だけの見合い。すでに結婚させると決めた二人の顔合わせでしかない。
二度目の異変は見合いの後すぐに起こった。
あれほどしつこくつきまとってきた義兄がピタリと姿を見せなくなったのだ。
もちろん同じ家に住んでいるのだから、ときには顔を合わせる。
しかしそんなときにも義兄は美奈子と目を合わさず、そそくさとその場を去るのだった。
喜んでいいはずの変化。
だが、美奈子の心は少しも晴れない。
それどころか、かえって、何とも言えない不気味さにおびえているのだった。
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