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ニュースを見るのが好きだ。 特に政治系。

もともと中国系の軍記物が好きなんだ。 中学の頃には夢中になって読み漁った。 三国志とか、史記、水滸伝。 そういう古代中国の戦ごとを描いた物語。 でも武将の打ち合い描写が好きなんじゃない。 僕が愛するのは軍師や君主の謀略知略。 どの勢力が生き残り、どこが潰えて、それはなぜなのか。 そんなやり取りがたまらなく好きなんだ。

だから今も政治のあれこれを眺める。 かつて軍記物を楽しんだのと同じ目線で政治ニュースを見ている。 あの政党はどんなやり方で注目を集めようとし、この政党がいかにしてそれを阻止するか。 イメージ戦略の成功と失敗。消える人、勝ち上がる人。 そんなごたごたが大好きだ。 動きが派手なら派手なほど面白い。

今日もどこか浮き立つ気分で某国営放送のニュース番組にチャンネルをあわせる。 最近は選挙が近いからかいろいろと動きがあって楽しい。 つまりは他人のケンカが好きなのかもしれない。 自分が巻き込まれるのはごめんだけれど。

「変えていいー?」

ニュース番組を見ようとする僕の横で友人が声を上げる。 どうしたらそこまでつまらなそうな声が出せるんだ。 しかもそれを楽しもうとしている他人に対して。失礼じゃないか。

「見たいんだよ!」

そう言って、後は完全に無視。 ワクワクしながらニュースを見ていたら、突然プツンと画面が消えた。 ちょ……! 何をする! 目をむいてにらんだら、あいつはフンとでも言いそうな表情で僕をにらみ返してきた。 腹ばいに寝そべって、ひざから折った足をぶらぶらさせながら。

「つまんねーのーぉ」

そうつぶやいてスナック菓子をぽいと口に入れる。 まったく……。 僕はめげずにもう一度テレビをつける。

「ハァ」

わざとらしいため息が聞こえてきて、そちらに目をやった。 あいつは体勢を仰向けに変え、頭の下で手を組んでいる。 冷めた顔で僕を見ながらあいつが言った。

「そーんなんで楽しい?」

無論、楽しい。 テレビに視線を戻しつつ、僕は呆れた口調で言い返す。

「楽しいに決まってるだろ。好きだから見てんだよ」

はぁ、とまたため息が聞こえた。

「そーゆーんじゃなくってさ……」

ため息交じりのぼやきが珍しくて、僕はまた友人の方に目を向けた。 あいつはまたうつぶせに転がり直して床に座った僕を見上げてくる。 一時として同じ姿勢でいられないんだな。 なんて落ち着きのない奴なんだろう。

「その……ニュースが楽しいかじゃなくてさ。 そんなんで楽しい? 毎日毎日おんなじことしてさー? 飽きない?」

何を言っているんだろう、こいつは。 ニュース番組が毎回同じ内容を放送しているとでも思っているのか。 冗談じゃない。 テレビは毎日違う内容を放送するし、ネット上の情報は日々新しくなっているのだ。 それをチェックするだけでも僕の毎日は新鮮な驚きに満ちている。

「同じじゃないよ。内容違うもん」

再びテレビに目を戻しながらそう言ってみた。 隣であいつがもそもそと動く気配が伝わってくる。 また姿勢を変えているのだろうか。 本当に一時もじっとしていられないやつだ。

「サクヤ、毎日何してる?」

あいつが問いかけてくる。

「たいがい部屋にいる。テレビ見たり、本読んだり、PCいじったり」

僕が答えるとあいつはまた問うた。

「テレビ見てー、本読んでパソしてー、寝て起きて、そんだけ?」

じろりと友人を横目で見る。 ふてくされたように頬を膨らませて、あいつは頬杖をついた姿勢で僕を見上げている。

「いや、食事もするし、トイレも行くし。あと、風呂にも入るだろ」

そう訂正したら、あいつはやっと笑い顔になって言った。

「いや、だからそんな細かいのはいーんだって!」

いや、よくない。 一日にすることを上げているのだから食事やトイレが省かれるのは不自然だ。

「よくないだろ、一日にすることって言ったら……」

反論しようとした僕をさえぎり、あいつはパタパタと手の平を振った。

「いーから。細かいのはいいから。 とにかくさー、その退屈そぉーーーな毎日、何とかしたら?」

どうして僕の生活を退屈だと思うのだろうか。 現に僕はこの生活を楽しんでいるのに。

「退屈じゃないよ、幸せだよ」

そう言って僕はオレンジジュースを1口、口に含む。 まったく、僕にはこいつの気持ちがわからない。

「幸せなら、今のうちに次の幸せ探さねー、と!!」

友人は最後の『と』を妙に力強く発音した。 同時にヒュンッと風を切る音。

「何言ってんだよ。幸せなときくらい幸せさをまったり楽しめばいいのに」

そう言いながらも、何の音かと思ってそっちを見る。

友人は奇妙な体制で固まっていた。 逆エビ反りというか、腰を手で支えて下半身を倒立状態にした姿勢だ。 何をやっているんだ、こいつは……。 ふむ、この姿勢から察するに。 どうやら友人は足を振り上げる前に、いつの間にか仰向けになっていたようだ。 ここまで落ち着きがないのはもはや一種の才能か、もしかしたら何かの障害かもしれない。

「ダぁメダメ! 幸せのショーミキゲンは短いんだぜ! 次から次へと追いかけないと!」

自転車をこぐように足を動かしてあいつが言った。 テレビのニュースはもうお天気情報に変わっている。 ああ、さっぱり内容に集中できなかった。 僕はぼんやりと明日の天気を確かめつつ、ぼそぼそとつぶやく。

「ずっと続くのが幸せだろ?  むしろおとなしく……ていうかさぁ。 幸せな状況を変えないように、同じような生活を続けたらいいんじゃないか? なるべく」

そうしたら、隣からバタンと音がした。 あいつがまた体勢を変えたようだけど、もう見てやるもんか。

「そぉんなの幸せじゃナーイ。不幸じゃないだけの……ゴニョゴニョっていう。 ホントの幸せはすぐ腐っちゃうからさー、いつでも追いかけてないと……ダメなんだZE?」

最後の部分を耳元近くでささやかれて飛び上がった。 何をする。 気持ち悪いじゃないか。

思わずあいつをにらんでからしまったと思った。 ああ、『もう見てやるもんか』と思ったばかりだったのに……。 それにしても会話の中で『ごにょごにょ』なんて言葉を使うやつには始めてお目にかかった。 いったい何だというんだ。

「ごにょごにょってなんだよ!」

問題の部分を問うと、友人はそっくり返って言う。

「ん、ピッタリの言葉思いつかんかった」

そのままブリッジ。 こいつ、本当に馬鹿なんじゃなかろうか。

「馬っ鹿じゃないのか、お前」

そう吐き出す。

「うーるさいのッ!」

あいつはすねたように言ってぺしゃんとつぶれた。

「ずっと変わらない幸せを手に入れられたらそれが最高じゃないか。 つーか、それが人生の目標じゃないのか? 普通」

つぶれた後もうごうごとうごめく友人に向かって語りかけてみた。 相変わらず僕の声はぼそぼそしている。 声を張って話すのが苦手なわけじゃない、と、思う。

「ちーがうって! そんな幸せナイナイ。ずっとなんて続かないヨー」

そう言って、あいつはむくりと起き上がった。

「だぁーってさ、今は幸せでも慣れちゃうじゃん。 それが当たり前になったらさー、手に入れたときみたいな『ヤッター!』感がなくなるしさ。 あ、それにー、そもそもそんな長く同じ状況続かないって。絶対なんか変わるしー」

言葉の合間にもりもりスナック菓子をほおばりながらあいつが言う。 僕はことさらに呆れた口調で一言。

「そんなのお前だけだよ」

吐き捨てたセリフへの返事が返ってくるまでには意外と間があった。

「そぉーんなことないと思うケド?」

そう言いながらもどこか視線が泳いでいる友人。 いかにもふざけた風の言い方が妙に引っかかる。 どうしたんだろう。 何が鉄面皮としか言いようのないこいつをこんな風に動揺させたんだろう。 それは確かに僕がしたことのはずなのに、僕には正体がちっともわからない。

「オレは毎日幸せよ? 一日だって同じことしてない、毎日なんか面白いことある」

あいつがそう言うので、僕は逆に問いかけてみることにした。

「……そんな忙しい生活して楽しいか?」

今度はすぐに答えが来た。

「むっちゃ楽しい。オレ、マジ幸せ」

パッと輝く満面の笑顔。 たぶん嘘なんてひとつも混じっていない。 何だかムカついたので嘘をつくことにした。 おもむろにやつの手からスナック菓子の袋を奪い取り、背面を見る。

「あ」

声を上げるとやつが『んー?』とでも言いたげな表情で僕を見た。

「どしたーん?」

今月も20日を過ぎる今日この頃。 現実には几帳面な僕がそんなミスを犯すわけはないのだけれど。

「ごめん、このスナック菓子、先月末で賞味期限切れてた」
「ぅぶっ!!」

僕の嘘を真に受けたのか、友人は奇声を上げて床をのた打ちまわる。 その様子が妙に面白くて、僕は久しぶりに声を上げて笑った。


Fin.

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