GAME

※ caution!! ※
この先には、暴力表現・残虐表現が含まれています。
血や大怪我が苦手な方はご注意を!
また、暴力表現のため、R−15指定になります。
身体か心の年齢が15歳以下の方は見ちゃダメ。

STAGE 3.


狙撃を受けた後、キッドは郊外に向かって走っていた。 やがて前方にバス停を発見。 しかも運のいいことにバスが停車中だ。 キッドは迷いのない足取りでバスに飛び乗った。

バスが向かったのは大きな公園の近くだ。

バスから降りたキッドは公園の中に入っていった。 中央に噴水がある。 噴水では小さな女の子ともっと小さな男の子が水遊びをしていた。 女の子は三歳くらい、男の子はまだヨチヨチと歩くのがやっとの年頃だ。 楽しそうに噴水に手をつっこむ姿が何とも愛らしい。 噴水を正面に見る形で並んだベンチには上品そうなおばあさんが腰掛けていた。 おばあさんは細いフレームの眼鏡をかけて、編み物をしている。 暖かそうなピンクの毛糸。 編んでいるのはカーディガンのようだ。 ときどき毛糸玉から伸びた糸をちょんと引っぱる。 そうやって糸を繰り出しながら、せっせと編んでいるのだった。

そんな平和そのものの景色の中をキッドが行く。 ベンチまで2mほどの距離にさしかかったときだ。 おばあさんの引っぱり方が強かったのだろうか。 糸を引き出そうとした拍子に毛糸玉が地面に落ち、ころころと転がってしまった。

「あらあら、あら……」

かなり高齢に見えるおばあさん、慌てながらもすぐには腰を上げられない様子だ。 そうしているうちに毛糸玉はキッドの足元まで転がって止まった。 立ち止まり、拾い上げる。 キッドはちょっとの間、手に持った毛糸玉とおばあさんを見くらべていた。

「あらぁ、すみません〜」

スローペースでお礼を言っておばあさんがゆっくり立ち上がる。 キッドはにこっと微笑んで、おばあさんに近づいた。

「どうぞ」

差し出した毛糸玉におばあさんも手を伸ばす。

刹那。

目にも留まらぬ速さでおばあさんが編み針を突き出した。 編み針の先端には鋭い針がついている。 針が向かう先はキッドの左手だ。 突き刺さるかと見えた瞬間、キッドの右手が彼女の手をつかみとめた。

目と目がぶつかる。息詰まるほどの緊張感。

次の瞬間、キッドの左手はポケットに飛び込んだ。 出てきたときにはその手の中に拳銃の姿。 さらに、老婆の手を握る右手にも力をこめる。 しかし相手は老人とは思えぬ力でキッドの手を振りほどいてきた。 同時に手刀で銃が叩き落される。 キッドが拾う隙もなく、銃はベンチの下に蹴りこまれた。

とっさに身をひるがえし、老婆との間に2歩分ほどの距離をとる。 キッドは右の銃を取り出した。 そこへ迫りくる老婆の鋭いキック。 右の回し蹴りがキッドの手首を狙う。 肩を引き、避ける。 しかし老婆は連続で攻撃をしかけてきた。 右、左、突き刺すようなパンチ。 拳が向かうのは銃を握るキッドの手だ。決して撃たせまいとするかのように。

老婆の拳がキッドの右手に当たるかと見えた瞬間だった。

キッドが銃を上に放った。 天高く、回転しながらブローニング・ベビーが飛ぶ。 自由になった両手で攻撃を受け止め、キッドは高く飛び上がった。 空中で出会う手のひらと銃。 可愛い相棒ベイビーが再び手の中に納まる。

発砲は着地よりも早く。

スタッと両足が地面についたときには勝負が決まっていた。 老婆の頬をどろりとした液体が伝う。 キッドはさらに引き金を引いた。 おまけのもう一発は、心臓へ。老婆が完全に倒れる。

と、そのとき。

ベンチの向こうの茂みの中で何かが動いた。 キッドの視線、銃口、全てがそちらを向く。 そのままキッドは動きを止めた。 ストップ。 まるで世界が止まったかのように。

停止した空気の中でキッドはゆっくりと振り返った。 目をやったのは自らの足。 太ももの裏側、膝から10cmほど高い位置。 そこには針が生えていた。 根元が太い形をした長くて鋭い銀色の針が。 キッドはじわりと視線を上げた。 その眼差しの先では、噴水で遊んでいた女の子が満面の笑みを浮かべている。 可愛い両手で、オモチャのような吹き矢の筒を握りしめて。

GAME OVER?

「計画通りです、終了しました」

サングラスをかけた男が一人、携帯電話に似た通信機に話しかけている。 男の足元には倒れたキッド。

「ええ、ご心配は無用です。 あの薬はかなりの強さですからかすり傷でも十分です。 事前のデータどおり、幼児の肺活量でも問題はありません」

どうやらキッドを刺した針には毒物が仕込まれていたらしい。 男は何度かキッドの体を足でつつき、動かないことを確認してから報告を続けた。

「こちらにも被害は出ましたが、想定内の人数です。 最後のプランはやはり秀逸でした。 さすがの奴もまさか幼児が敵とは思わなかった様子で……」

そこまで言って、男は息を飲んだ。 目の前でキッドが起き上がったのだ。 男は目を見開いた。 サングラスに写るキッドの顔には不敵な笑み。 黒いレンズの中で湾曲したキッドの像が銃を構えた。

そして、銃声が一発。


GAME CLEAR!


「もっしもーし、どちらさま?」

さっさと公園から立ち去りつつ、通信機に向かって明るい呼びかけ。 キッドは太ももに針を刺したまま元気よく歩道を歩いていた。

『……あら、久しぶりね。私を覚えているかしら、坊や?』

機械ごしに響く艶やかな声。 声の主には覚えがあった。 キッドの耳によみがえるのは去年の11月30日、カノジョの誕生日に聞いた言葉だ。


「単刀直入に言うわ。ブローニング・キッド、私と組みなさい」

妖艶に、にったりと微笑んだのは真っ赤な口紅。 ぬれた色に輝く黒い瞳を持ち、血よりも濃厚なダークレッドのマニキュアをしていた。

その女はキッドを手に入れようとしたのだ。 そして、断ったキッドを消そうとした。もちろん、しくじったが。

「……覚えてる。 紅ーいルージュのオバサンでしょ? アンタだったんだ、ラ・ス・ボ・ス」

言いながら、キッドはジーンズに刺さった針を抜いた。 ジーンズの下にあったのはスポーツ用のサポーター。 幸運にも針はサポーターに阻まれ、皮膚までは届かずにいたのだ。 通信機からは低く笑う声が聞こえてくる。

『ラスボス? ふふ、そうね。 でもおばさんはないわ。まだ未婚マドモアゼルなのよ?』

キッドはハハンと鼻で笑い返した。

「何で変な接近戦ばっかしかけてきたわけ? ふつーに狙撃も一回あったけどぉ、ナイフでしょ? 針でしょ? 吹き矢とかありえないし」

キッドの問いに女が応じる。

『銃撃戦では勝てないから、といったら誉めすぎかしら? でも間違いだったようね。肉弾戦もできるじゃない、見直したわ。』
「惚れちゃダメよ〜♪」

おどけた口調でキッドが言うと、女はまた笑った。

「まだ来る気?」

片眉を上げてキッドが問う。

『そうしたいけれど、やめておくわ。』

女が答える。

「オレの勝ちだね」

間髪入れずにキッドが言った。

『いいえ、引き分けよ。 確かにあなたを片付けることはできなかった。でも、私も生きている。 私はあなたの手の届かない場所にいるのよ。決着は、また今度ね』

女の声音には余裕すら感じられる。

「部下の死亡はノーカウントなわけ? 冷たいんじゃなーい?」

眉をひそめるキッドの言葉。

『ときには氷になることもあるの。それが、女』

女は思わせぶりな口調で答えを返す。

しばしの間、沈黙が流れた。

『また会いましょう、キッド。近いうちに』

女が言った。

「ヤだけど……、またね。今度は直接アンタの顔を見に行くよ」

そう答えて、キッドは通信機を手放した。


「バイバイ、紅いひとマドモアゼル・ルージュ

乾いた音とともに小さな機械は地面に転がる。 そのまま立ち去るキッドの背後で通信は切れた。 ダークレッドが似合う女とウルトラマリンブルーが好きなキッド。 青と赤との戦いはこれからも続く。


Fin.

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