優しさで見逃してやってんじゃない証拠に、依頼受ければ誰だって殺すよ?
相手がどんな人間でも容赦なし。
つーか、そもそも相手の人格なんて気にもしてないみたいでさ。
この前も、何だっけなあ。
何かの依頼で2歳の子を殺したらしいよ?
言ってもさぁ、あいつってちょーっと前までは素人だった子よ?
ちょっとはためらうでしょ、常識的に考えて。
でも何とも思わないんだね、どうやら。
ま、そゆとこプロなんだけど、さ。
ん〜?
本当に誰でも殺すのかって?
んあ〜、とりあえず俺の知る限りではね。
誰でも殺すんじゃないかな。
たとえそのターゲットが自分自身でも、ね。」
俺の話はこれで終わり。
この話を聞きに来たクライアントは最後の部分に興味を示した。
『本当に自分自身でも殺すのか?』ってね。
俺は請合ってやったね。
ヤツはプロだ、依頼を受けたなら必ず果たすはずだ、って。
もしかしたら本気でそんな依頼しちゃうかもね、この人。
単純だからなぁ。
今まで俺が売った情報には間違いなんて一つもなかったし。
その後の彼がどうなるか、そんな事は知らない。
このクライアントとは長い付き合いだったな。
さよなら、常連さん。
あんた、金払い悪かったね。
「もういいー?」
そのおっさんが出て行ってから、数分後。
ぴらっと壁にかかったカレンダーがめくれて、馴染みの客が顔を出した。
あのカレンダー。
あれ、抜け穴ンなってんの。
俺、実は隣の部屋も借りててさ。
壁ぶち抜いてあんのよ。いざってときのために。
カレンダーより一回りっくらい小さいかな。
人が一人、出入りできる程度くらいの幅で、縦は80cmくらいの四角い穴ね。
まぁ、実際、緊急用に使うことってなくてさ。
もっぱら趣味の銃器と資料置き場になってるけどね、向こうの部屋。
顔出した坊やは噂の張本人。
さっきのクライアントが欲してた情報のターゲット、あだ名は“キッド”。
「そんな風に思ってたんだ。」
片っぽの眉毛を上げて言う。
「何が?」
そう聞いてやったら、あいつはムッとした顔で答えた。
「オレのこと。」
「んまぁね〜。」
俺はあいつに背を向けたまま、書類を見ながら答える。
あぁ、そう思ってたよ。
どっか間違ってた?
「アレはねーよ。自分撃てなんて依頼来たら、フツーに依頼者返り討ちョ?」
チラリと見やったPCのモニタにあいつの姿が映る。
くるくると手の中で愛銃を回しながら、あいつは言った。
だから答えてやったよ。
「お前、本っ当に話聞いてないのな〜。
ちゃぁんと言ったろ? 『依頼を受けたら』ってさ。」
なぁーんて、ね。
「ハァ?」
疑問系の声は生意気な響き。
いつもどおりの不遜な態度にちょっとだけ笑いがこみ上げる。
「だから、『依頼を受ければ自分でも殺すだろう』とは言ったよ。
でーもさ、お前が自分を殺せって依頼でも引き受けるとは言ってないだろ?」
ちっ、ちっ、ちっ、ちっ。
人差し指を振りながら舌を鳴らす。
モニタの中のあいつは、きょとんとした顔。
「うーわ、だましじゃん、それ。」
騙してなんかないよ。
俺はおかしくってたまらない。
「騙してないよぉ、ちょっとわかりづらい言い方だけどぉ。」
むふふ、ニヤニヤ。
俺がうれしげにそう言うと、あいつはへっと鼻で笑う。
「最悪。」
「あーら、そぉ? うれしいこと言ってくれるね〜。」
頬をニマリと吊り上げながら、俺はふとあいつを振り返る。
「さすが理解者だね、俺の。」
こう言ってやると、あいつの顔から笑みが消えた。
「……フン、だ。」
生意気坊主は仏頂面でそっぽを向いた。
それから、乱暴にカレンダーをめくりあげて、四角い穴の奥に戻ってったよ。
お帰りですか、そうですか。
なんとなーくその背中を見送ったら、何だか急に人恋しくなっちゃってさ。
「おーい、待てよぉ。ちょっと遊ぼぉ?」
寝ぼけた声で呼びながら、俺はあいつの後を追う。
カレンダーをめくりあげて隣の部屋を覗き込んだら、その姿はすでに無かった。
素早いねぇ。
もう帰っちゃった?
ぐっと身を乗り出したとたん、声がした。
「どーん!」
ほぼ同時に、あごの下に冷たい感触が当たる。
あー、やられた。
両手を頭の後ろにやりつつ、目だけを下に向けてみる。
やっぱり。
真下に座ってるよ。
死角だからねぇ、そこ。卑怯だよね。
わかったからこの突きつけてる銃をしまいなさいっての。
ほーんとに、この子ったら無いわ。