He knows him

「目立ちたがりだね」

俺の第一声はこれだった。 そりゃそうでしょ、あいつのこと語るんなら、さ。

「すぐに名が売れた理由、知ってる?」

そう聞いてやったら、クライアントのおっさん、自信満々に答えたよ。 腕がいいからだ、そんなの知ってる、だってさ。 ちーがうんだなあ、それ。それだけじゃない。

「惜しいね」

俺は笑ってやった。

「腕がいいからってだけじゃないの。 あいつはねぇ、目撃者を始末しないんだ。 敵やターゲットは確実に消すけど、その場にいた他の人間は始末しない。 だからすぐ噂が広まったんだ。アイツすごいぞ、ってね」

言っておくけれど、これは紛れもない事実。あいつはターゲットか、仕事を妨げようとしてきたヤツ以外はほとんど殺さない。はっきりと自分の顔を見た相手でも、邪魔にならなければノータッチだ。

優しい子だね、って?

それは間違い。

やさしーんじゃないの。自己顕示欲が強いだけ。 残したいんだね、自分の証拠。 ジャンキーなんだ。 中毒者。 他人の目に触れてることへの、中毒?  知られたい、知られていたい。理由はない、どうしようもない。 そんな飢え方。 知られるために動かなきゃ、自分が消えると思ってる。

だから自分の噂が広がるように、ついつい人前に現れてしまうんだ。 優しさで見逃してやってんじゃない証拠に、依頼受ければ誰だって殺すよ?  相手がどんな人間でも容赦なし。

つーか、そもそも相手の人格なんて気にもしてないみたいでさ。 この前も、何だっけなあ。 何かの依頼で2歳の子を殺したらしいよ?  ひどいよねぇ、ちっさすぎるでしょ。 完全にその子には罪はないよね。 周りの大人たちの思惑に巻き込まれたんじゃないの?

言ってもさぁ、あいつってちょーっと前までは素人だった子よ?  そんな依頼ならちょっとはためらうでしょ、常識的に考えて。 でも何とも思わないんだね、どうやら。 ま、そゆとこプロなんだけど、さ。

相手が相槌代わりにうなずくのをいいことに、俺は長々語ったね。 そしたら聞くんだよ、クライアントのおっさんが。 本当に誰でも殺すのかって。

「んあ〜、とりあえず俺の知る限りではね。 誰でも殺すんじゃないかな。たとえそのターゲットが自分自身でも、ね」

俺の話はこれで終わり。

この話を聞きに来たクライアントは最後の部分に興味を示した。 『本当に自分自身でも殺すのか?』ってね。 俺は請合ってやったね。 ヤツはプロだ、依頼を受けたなら必ず果たすはずだ、って。 もしかしたら本気でそんな依頼しちゃうかもね、この人。 単純だからなぁ。 今まで俺が売った情報には間違いなんて一つもなかったし。

もしも依頼をしたとして、その後の彼がどうなるかなんて事は知らない。 このクライアントとは長い付き合いだったな。 さよなら、常連さん。 あんた、金払い悪かったね。


「もういいー?」

そのおっさんが出て行ってから、数分後。 ぴらっと壁にかかったカレンダーがめくれて、馴染みの客が顔を出した。 あのカレンダー。 あれ、抜け穴ンなってんの。 俺、実は隣の部屋も借りててさ。 壁ぶち抜いてあんのよ。いざってときのために。

抜け穴って言っても大きくはなくて、カレンダーより一回りっくらい小さいかな。 人が出入りできる程度の幅で、縦は80cmくらいの四角い穴ね。

まぁ、実際、緊急用に使うことってなくてさ。 もっぱら趣味の銃器と資料置き場になってるけどね、向こうの部屋。

顔出した坊やは噂の張本人。 さっきのクライアントが欲してた情報のターゲット、あだ名はキッド。 正式なあだ名はブローニング・キッド。 二挺のブローニング・ベビーを器用に使う、俺と馴染みのヒットマン。

「そんな風に思ってたんだ」

あいつが片っぽの眉毛を上げて言う。

「何が?」

そう聞いてやったら、あいつはムッとした顔で答えた。

「オレのこと」
「んまぁね〜」

俺はあいつに背を向けたまま、書類を見ながら答える。 あぁ、そう思ってたよ。 どっか間違ってた?

「アレはねーよ。自分撃てなんて依頼来たら、フツーに依頼者返り討ちョ?」

チラリと見やったPCのモニタにあいつの姿が映る。

「お前、本っ当に話聞いてないのな〜。 ちゃぁんと言ったろ? 『依頼を受けたら』ってさ」

なぁーんて、ね。

「ハァ?」

疑問系の声は生意気な響き。 いつもどおりの不遜な態度にちょっとだけ笑いがこみ上げる。

「だから、『依頼を受ければ自分でも殺すだろう』とは言ったよ。 でーもさ、お前が自分を殺せって依頼でも引き受けるとは言ってないだろ?」

ちっ、ちっ、ちっ、ちっ。

人差し指を振りながら舌を鳴らす。 モニタの中のあいつは、きょとんとした顔。

「うーわ、だましじゃん、それ」

騙してなんかないよ。 俺はおかしくってたまらない。

「騙してないよぉ、ちょっとわかりづらい言い方だけどぉ」

むふふ、ニヤニヤ。 俺がうれしげにそう言うと、あいつはへっと鼻で笑う。

「最悪」
「あーら、そぉ? うれしいこと言ってくれるね〜」

頬をニマリと吊り上げながら、俺はふとあいつを振り返る。

「さすが理解者だね、俺の」

こう言ってやると、あいつの顔から笑みが消えた。

「……フン、だ」

生意気坊主は仏頂面でそっぽを向いた。

それから、乱暴にカレンダーをめくりあげて、四角い穴の奥に戻ってったよ。 お帰りですか、そうですか。 なんとなーくその背中を見送ったら、何だか急に人恋しくなっちゃってさ。

「おーい、待てよぉ。ちょっと遊ぼぉ?」

寝ぼけた声で呼びながら、俺はあいつの後を追う。

カレンダーをめくりあげて隣の部屋を覗き込んだら、その姿はすでに無かった。 素早いねぇ。 もう帰っちゃった?

ぐっと身を乗り出したとたん、声がした。

「どーん!」

ほぼ同時に、あごの下に冷たい感触が当たる。

あー、やられた。

両手を頭の後ろにやりつつ、目だけを下に向けてみる。 やっぱり。 真下に座ってるよ。 死角だからねぇ、そこ。卑怯だよね。 わかったからこの突きつけてる銃をしまいなさいっての。

ほーんとに、この子ったら無いわ。


Fin.

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