The photograph

秋風が吹き抜けていく。 街路樹のイチョウが黄色い葉を散らす中、キッドは歩いていた。 さっき圭介から受け取った写真を手に、同じく圭介が示してくれた場所へ向かう。 今回の仕事は狙撃ヒット目標ターゲットは人間だ。

ひらり、手にした写真をひるがえしてみる。 写真の中央には一組の男女が写っていた。 女の方は実に堂々とした美女だ。 写真ごしにもまるで女優のようなオーラを感じる。 男の容姿は平凡そのもの、人のよさそうなオジサンに見える。 ただし、着ているスーツは『超』が三つはつきそうなほどの高級品だが。

彼らの背後には何人かのSPと、小柄な運転手を乗せた黒塗りのリムジン・カー。 この写真に写っているのが、一応、今回の目標となる。 一応、というのは、まだ目標となる人物が特定できていないからだ。

写真中央の二人は夫婦である。 その筋では有名なブローカーなのだそうだ。 凄まじい戦略家で、その頭脳には誰も敵わないとウワサの二人組。 どちらかが本物の策士。 どちらかが、ダミー。 実際に戦略を練っているのは一人だけで、もう一人は飾りなのだという。

依頼者の希望はこうだ。


どちらかはわからないが、本当に戦略を立てている方を抹殺して欲しい。


キッドは言ってやった。 どちらも疑わしいのなら二人とも消してしまってはどうか、と。 返事はNOだった。 予算の問題上、という理由で。

この理由を聞いたときにはさすがのキッドもあきれてしまった。 確かにこの手の依頼は人数×単価で値段を決めるから、狙う人数が少ないほど安い。 それはわかるけれど、目標の確定までキッドに押し付けてくるとは。 どちらが本体かを探るのは容易ではあるまい。 その分の時間と調査費用はどうしろというのだろう。まったく、非常識な依頼人もいたものだ。

手にした写真をジーンズの尻ポケットに差し入れる。 そろそろ目的地。 圭介の情報によればもっとも理想的な狙撃ポイントである場所だ。

たどり着いたのはレストランの前だった。 広い広い大通りに面した高級そうな店だ。 明後日、例の夫婦による予約が入っているという。 圭介の情報が確かならば、写真に写っていた車でやってくるはずだった。

チャンスは数秒間。 夫婦が車から降りる一瞬の隙。

車内にいる間はいけない。 窓は防弾ガラスに決まっているから、ヤワな拳銃なんかではいくら撃ってもムダなだけだ。 完全に降りてしまってからもよくない。 SPたちが二人の周囲を固めてしまい、狙いづらくなる。 乗り降りするときなら上手く隙をつけそうだった。 開くのは店に面した側のドア。 ドアの隙間から車内へ撃ち込む感じでショットを決めたい。

キッドは辺りを見回した。 店の横に駐車場がある。 ここがいいだろう。 誰かの車に乗せてもらって駐車場で待ち伏せよう。 そして目標がやってきたら撃ち、そのまま逃走する。

「うん、OK。あとは……」

顔をしかめるキッドの頭の中を圭介の言葉がよぎる。


   どっちがボスかは不確定要素が出てきたんでまだ不明。
   明日知らせるから、せいぜい計画でも立てながら待つように。

「頼むぜ、ケイさーん」

小雨がぱらつきだした天を仰いで、キッドは独り言を言った。


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