The photograph

そしてついに決行の日となった。

時刻はもう夕方間近。陽の光がほんのりと黄色を帯びている。

キッドは車内にいた。 狙撃のポイントとなるレストランの駐車場に止まった車の後部座席。 運転手はもちろんキッドの協力者だ。 目標ターゲットの乗った車がやってきたら、こちらの車をすばやく発進させる。 相手の後ろを通り抜けざまに撃って、そのまま逃亡、という計画だった。

目標たちはまだ来ない。 キッドは退屈まぎれに車の窓から空を見上げた。 高い高い秋の空。 遠くで鳥たちが一列になって飛んでいく。 視線を地上に戻す。

来た。

道の向こうからやってくる黒いリムジン。 目標の乗った車に間違いない。 車の窓を20cmばかり開けて、キッドは両手で銃を構えた。

おや。 なぜ、両手なのだろうか。

目標が車から降りるのならば話は簡単なはず。 車外に出たところを真っ直ぐに狙い撃てばいい。 弾丸は一発で十分。 二挺の銃を構えなければいけない理由はどこにもないはずだ。

それでも、キッドの手には二挺の銃。 右手に握るはファイブセブン。 左手には可愛い相棒、ブローニング・ベビーがしっかりと収まる。 リムジンは滑るように店の前へとやってきた。 リムジンが止まる。 ほぼ同時に、キッドが乗っていた車のエンジンがかかった。

まだだ。

静かに動き出す車の中、キッドはじっと動かない。 まだ動くわけにはいかないのだ。 撃つのは、リムジンの後を通り抜ける瞬間なのだから。 息を殺してじっと待つ。 その瞬間を。 キッドの乗る車が駐車場の出口に着いた。 車体は歩道に乗り上げ、前輪が縁石を越える。 そのとき、リムジンのドアが開いた。

今だ。

二つの銃口が同時に火を噴いた。 無音の衝撃。 二つの軌跡が空気を切り裂く。

ファイブセブンの鋭い弾と、丸くて可愛いベイビーの弾。 ハイパースローモーションで見れば、それぞれが少しずつ近づいていくのがわかっただろう。 開いたドアの直前で、二つの弾丸はついに接触。 ぶつかり合った弾同士が軌道を変える。

ブローニング・ベビーの弾は店の前にあった花壇の土に刺さった。 ファイブセブンの弾はリムジンの車内に飛び込む。 弾は人の良さそうな紳士を通り過ぎ、女優のような美女を通り過ぎていった。


リムジンの周辺は驚きと悲鳴に包まれている。 きっと、何が起こったのか、完全には理解できていないのだろう。

写真に写っていたあの夫婦も、出迎えに出てきた店の従業員も右往左往している。 キッドを乗せた車は彼らを残して走り去っていった。 車は大通りを抜け、郊外の大きな橋を渡り始める。

すっ、と後部座席の窓が開いた。

キッドが窓から身を乗り出す。 ついさっき拳銃を握っていた手の指に、あの写真を挟んで。 車が橋の真ん中辺りにさしかかったとき、キッドは写真を手放した。 ひらり、写真が宙を舞う。 飛んでいく写真の中央には一組の男女。 頭脳派ブローカー夫婦として名高い、女優のような美女と平凡な男。 そして写真の片隅には修正ペンの白い線でしっかりとマルがつけられていた。

運転手に。

目標は、この人物。 ブローカーとして最強の頭脳を持ち、全ての戦略を立てていた人物はこの男だった。 それは最初に言われていた二人組のどちらでもない。 彼らの本体は、写真の片隅でただの運転手を装っている男。 表立って活躍しているあの夫婦は二人ともダミーだったのだ。

さきほど、キッドの弾丸は絶妙な角度で障害物をすり抜け、運転手のこめかみを貫いていた。 わがままな依頼どおりに、目標だけを撃ち取ることに成功していたわけだ。

写真は風に乗って飛び、川面に落ちた。 流されながら静かに沈んでいく四角い紙。 頬杖をついて写真を見送りつつ、つぶやくのはこんな言葉だ。

「やるじゃん、ケイさん♪」

まもなく写真は水中に消えた。 車の窓を閉めるため、キッドは車内に頭を引っ込める。 閉じた瞳の奥で、今この場にはいない仲間に最大の敬意を表しながら。


Fin.

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