ふと。
思い出した。
あたしを追っているあの男、どこかで見たような気がしてたけど。
わかった、あいつ、昼間の男だ!
バイト帰りの坂道であたしと友だちを追い越してった人。
印象が違いすぎてわからなかった。
だって服装とか雰囲気が全然違う。
昼間見た時は白いタオルに隠れていた頭、今はグレーの髪が見える。
燃えた後の灰みたいな、どこかかすれた銀の色。
昼間は体育系部活風だったけれど、今は、何だろう。
こんなときになんだけど、ちょっとカッコいいんじゃない?
バカなことを考えていたら、彼はあっという間に近づいてきた。
隣のビルの屋上から、ぴょんと跳んであたしと同じ建物に乗る男。
銃は握っていない。
あたしは書類をぎゅっと抱きしめた。
男は立ち止まる。
ため息。
その、若い若い男が吐いた。
まだあたしより若いくらいなのにこの落ち着きっぷりって何?
あたしが見る前で、彼は両手を上げて『敵意無し』のポーズをとった。
うそだぁ!
さっきあたしに銃向けたじゃない!
あたしはますますしっかりと書類を抱え、キッと相手をにらんだ。
すると男は困った様子でクイと肩をすくめて。
こう言った。
「一枚、分けてくれない? オレが欲しいやつ。」
男の言葉。これ、どういう意味?
どれだか知らないけど、書類を一枚分けてやれば解決ってこと?
一瞬、書類を抱いていた力が抜けかける。
でもダメ。
そう思いなおした。
だまされちゃダメ、油断したら殺されるかもしれない。
そうだ! オジサンはどうなったわけ!?
「……オジサンは?」
あたしはやっとのことでかすれ声をしぼり出した。
男はちょいと首をかしげる。
無言で。
ナニソレ、どういう意味?
……まさか……こ、殺した!?
そう思ったとたん、体が動いた。
「っ、こぉんなもの〜!!」
どうしてそんなことしたのか自分でもわからないけど。
あたしは振り返りざまに書類の束を投げ捨てたのだ。
思いっきり、目の前に開けた空間めがけて。
バサッと身をひるがえしながら、上の方に向かって書類の束が飛ぶ。
なんだか不恰好。
そうしたら、後ろからパンパンパンッと立て続けに音がした。
コルクを抜くような音。
これは銃声。
その音とほぼ同時に、宙を舞っていた書類たちがパァッと飛び散った!
クリップでしっかり留まっていたはずなのに。
どうして?
呆然と白い紙のダンスを見つめるあたしの横を何かが通り抜けてった。
あの男だ。
男は飛んでいった。
軽々と。
あたしの仲間のオジサンでさえ飛ばないような、広い空間を一息に。
それはまるで、鳥のよう。
全身黒っぽいからカラスかコウモリみたい。
彼のお尻のポケットで何かが光っていた。
ケータイ? 着信してんじゃん。
光の色は明るすぎる青。
それを目にしたとたん、彼のイメージカラーは青になった。
服装と足して2で割って、紺色に近いくらいの濃ーい、けど光を感じるような青。
ああ、これは、青い鳥。
ポカンと口を開けて見ているあたし。
彼は空中で一枚の書類をつかんだ。
そのまま、向こう側の屋上に着地。
それからは振り向きもせずにさっさと立ち去っていく。
あたしはぺたりと座り込んだ。
「ォーィ。」
後ろから小さく声がする。
振り向くとオジサンが元気そうにこっちへ向かってくるところだった。
ほっとして、涙があふれた。
あとで知ったこと。
そのときの若い男は『キッド』と呼ばれている人らしい。
ブローニング・キッド。
そういう呼び名の何でも屋。
基本は殺し屋らしいけど、頼まれて気が向けば何でもやる人。
すごい有名らしい。
一流なんだって。
絶対あたしより若そうなのに。
あの夜、あたしたちはとりあえず拾えるだけの獲物を拾った。
それからとぼとぼとお家に帰った。
「かなわんなぁ。」
オジサンがぼそりとつぶやいた。
いつもあたしをヒヨッ子と呼ぶその声で、降参という名の賞賛をつぶやいた。
悔しいの。
なんだかとても悔しいの。
まだ若すぎるから、ヒヨッ子でいいと思っていた。
業界の中じゃかなりの若手だと思ってたんだもん。
それなのに、ジャンル違いとはいえ年下の一流がいたなんて。
いつまでもヒヨッ子でいたいとさえ思ってた。
けど、そんなのやめる。
あたしは立派な鳥になる。
いつかあたしは、あいつより高く空を飛ぶの。
そう決めたんだ。
あたしは今日から生まれ変わって立派なドロボウになるつもり。
ドロボウ世界じゃ知らない人がないくらい一流になるつもり。
これからどんどん伸びていくから、今に見てろって思ってます。
そういうわけで、これはあたしからの挑戦状。
キッド様。
あなたは一流様だからあたしみたいな小モノのことなんか覚えていないでしょう。
でも思い出して。
先月の夜、出会った女です。
あなたに追いつくのはずーっと先だろうけど今からライバル宣言しときます!
ぁ、でも評判とかのライバルだから。
直接対決とか全然嫌だから。
殺しに来ちゃやだよ。
最後にお願いが一つ。
あたしの事を覚えといてね。
あたしは今にどんどん伸びて、立派な鳥になるつもり。
そしていつかあなたを追い越したい。
その日までどうか、私の事を覚えておいて。
お願い、あの日の青い鳥。
敬具
(『敬具』でいいんだっけ→;; 違ってたらごめんなさい ^ロ^;)
斎藤
Fin.
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