Best matched song

※ caution!! ※
この先には、暴力表現・残虐表現が含まれています。
血や大怪我が苦手な方はご注意を!
また、暴力表現のため、R−15指定になります。
身体か心の年齢が15歳以下の方は見ちゃダメ。

背骨に当たる硬い感触。 全神経がその一点に集中する。

「捨てて、ソレ。銃」

背中からアイツの声が聞こえてきた。 大人しくホールドアップするか? “負け”の二文字が脳裏によぎる。 同時に、俺の背中に銃を押し当てるアイツの姿も。

いや、まだだ!

一か八かだった。 息を止めて、俺は両手を挙げる代わりに捨てろと言われた拳銃を握り直した。 バッ、と。 一気に後ろを振り向く。 振り向きざま、背後にいた人間に向けて銃を構えた。

……素手?

俺は目を疑った。 そこにいるのは間違いなくアイツなのだ。 俺が狙う、敵。 緑のジャージ、アッシュグレイの髪、白い肌のこぎれいな顔。 脳裏に描いたのと全く同じ姿。 ただし、その手には何も握られていない。

そう、敵は素手だった。 何も持っていない。 ただ左手をだらりと下げ、人差し指をやや立てた形に握った右手を突き出して突っ立っていた。

俺が背中に突きつけられていたモノはどこだ?  戸惑い、次の瞬間にはプッと吹き出した。 何だ。 銃口じゃない。 拳銃じゃなかった!  指だ。 折り曲げた指の関節を押し当てられていたんだ、俺は。 ただのハッタリ。ただ、それだけのこと。

「手を上げろ、頭の後ろで両手を組むんだ」

欧米の刑事映画よろしく、俺は堂々とヤツに宣告した。 敵はしぶしぶといった様子で両手をあげる。 形勢逆転。 俺は思わず笑みを浮かべた。 にやり、ゆるい微笑み。 追い詰めた。 勝負の行方は見えたんだ。 あとは。

あとは……どうする?

そう考えたとたん、自分の顔からサッと血の気が引いていくのがわかった。 逮捕しに来たんじゃない。 じゃ、どうするんだ?  退治。 そう、退治するのさ。 俺の目的はコイツをこの世からおさらばさせること。 害ある獣を駆除するように。

思い出した目的にゆるい笑みが消える。 凶器を構えている俺。 銃口の向く先では、まだあどけなさすら残るような少年が憮然としている。

コロスノカ?

撃ツノカ、コンナニ若イ少年ヲ。

迷いが脳を揺さぶった。 目の前で死神が笑う。 恐怖じみた躊躇。 脳の奥で何かがゆらゆら揺れる。 俺の惑いに気づいているのだろうか。 件の少年はニッと口の端を上げて見せた。 八の地に寄った眉とあいまって、何とも言えない苦笑の表情。 この苦笑が示すのは何だろう。 俺への哀れみだろうか。

「笑うなよ」

そう言ってみた。 覇気のないセリフだ。 死んだように平坦な調子。 どうした、俺? せっかくの見せ場だってのにテンション低いじゃねぇの。 クールじゃない。

「笑うな」

もう一度、俺は言った。 あいつは無言のままひょいと片眉を上げる。 まるで外国人のような仕草だ。 『何かお気に触ることでも?』 なーんて、言わんばかりに。

「お前……っ」
「アンタ何なの? ケーサツ?」

お前の負けなんだよ、そう言いかけた俺を遮り、アイツが尋ねてくる。

警察か。 いや、今はもう違うさ。 俺は小さく首を横に振る。

「何しに来たの?」

アイツは重ねて問うてきた。 何ヲシニ?

「退治しに来たんだ、殺し屋をな」

ほとんど反射的にそう答えた。 口から飛び出した言葉に自分で惑う。

「ふーん」

アイツはまったく面白くもなさそうに鼻先だけで応えた。

数秒の間。

化石したようにお互いを見詰め合う。 先に沈黙に耐えかねたのは俺の方だった。

「青木貴史だな?」

確かめるように問う。

「まぁね」

敵は素直にうなずいた。 耳元がキラリ、あおく光る。 ピアスだろうか、ウルトラマリンブルーの小さな飾りが見える。 憎むべき敵さんの目に視線を戻せば、探るように俺を刺すとび色の瞳。 ああ、コイツの目は猫に似ている。

「打つ手なし、だろ?」

少しも怯えない姿にいらだちながら、そう問いかけた。

「甘ぁ〜い」

猫の瞳でアイツが笑う。

「“撃つ”手はまだあるー」

頭の後ろから両手を出して、ヒラヒラ、ヒラヒラと指を動かす青木。 なんて生意気な。 まだ言うか、この状況で。 喉の浅いところからかすれた笑いがもれてくる。 いいねぇ。 悪くない。 まだ何かできるならやって見せてくれ。

KNOCK ME!

俺をぶっ飛ばしてみろよ。

「オレの名前は知ってンの?」

突然、アイツが言った。 何言ってるんだ? さっき確認したばかりだろ?

「青木貴史」

俺がその本名を告げると、アイツはふるふるっと首を横に振って見せた。

「そっちじゃなくてぇ、仕事の」

仕事の? 芸名的な呼び名ってことか?  ああ、わかった。 ほら、あの……、何だっけか。

「……コードネームか?」

やっと記憶の隅から引っ張り出して、俺はアイツに問い返す。

「んー、まぁ、そんなトコ?」

敵は眉をちょっとしかめて軽い調子でそう言った。 俺は無言で首を振る。 残念だがそれは知らない。

「じゃあ知れば? キッド。……ブローニング・キッド」

ひゅん、とアイツが手を振った。

瞬時。

アイツの両手に銃が現れた。 ひどく小さい手のひらサイズの拳銃が。 目を疑う。 どこから出した!?  まるっきりマジック。 タネも仕掛けもわからない。

「情報戦で負けてんじゃナイ? オレのベイビーズはどこにでも隠れるんですけどー」

ああ! 俺は思わず、心の内で声を上げた。 そんなの知ってる。 鑑識から上がってきたんだ、『この弾丸を発射したのは非常に小型の拳銃』 だと。 手のひらに、袖の中に、ポケットの奥にも収まるサイズのハンドガン。 いわゆる隠し持ち可能な武器(コンシールメント・ウェポン)だろうと。 例えば名称をあげれば、ベスト・ポケット、PPK、それから……ブローニング・ベビー。

思い出したときにはもう後の祭り。

「バイバーイ♪」

プローニング・キッドが言った。クソかわいらしい別れの言葉。 パンッ、パンッ!  弾ける銃声と共に俺の腹に風穴がぶち開く。 面白いように噴き出す血液。 思わず押さえた手のひらが粘っこい血で真っ赤に染まる。 熱っちぃ。 こんなに熱いもんか、弾丸(タマ)喰らうのって。 撃たれてすぐに意識が消えるわけじゃないんだな。 がっつり喰らったのにこんなにも正気だなんて。

再度ひっくり返った状況に思考回路が焼き切れる。 どうしていいのかわからない。 俺はただ戸惑い、立ち尽くした。 うろたえながらもまた思う。 ブローニング社製。 その名を冠した隠し持ち可能な武器(コンシールメント・ウェポン)の存在。 知ってた。 それぐらいわかるんだよ、てめぇのあだ名なんか知らなくても。 知ってたんだ。 ただちょっと忘れていただけで。

これは決定的な敗北じゃない、ケアレスミスだ!

……はは。何言ってんだ、俺。 俺はかすかに失笑をもらす。嘲り笑う対象は自分。 2発、3発、追撃が来た。 殴りつけるよりずっと強い衝撃が俺の腹部を襲う。

俺はアイツを見つめて口を開いた。 あのな、言っとくがまだ死んでねぇ。 油断すんなよ?  無駄に殺られるもんか。

伝えたい言葉は音にもならず、目の前の少年はすでに暗殺者の貌。

彼は1歩前に進み出ると、俺の腹に銃口を押し当てた。 4発目。 またしても俺の腹に血しぶきの出口が開く。 やっとのことで意識がブレた。 終わりへの予感、何となく安堵。 だが己を叱りつけるようにこう思い直す。 俺が止めなければこのガキはまだまだ人を殺すんだ。 止めずにどうする!

そうしたらまた失笑が漏れた。 なんて未練がましいんだ、俺は。 まだ負けた気してねぇの。 こんな状況で何をどうして勝つつもりなんだよ。 ああ、みっともない。

無意識のうちに手から滑り落ちていたのだろう、よろめいた拍子に自分の銃を踏みつけた。 暴発する、と思う。 しかし俺の得物は沈黙したままだった。 一瞬でも心配した自分が悲しい。

じり、とよろめきながら、俺は1歩後ろに下がった。 そこで意識が途切れる。 ホワイトアウト。 視界が白い闇に覆われて、俺はぐらりと倒れこむ。 終了。 全部終わった。



けたたましいサイレンの音に気がつき、目を開ける。 ピーポーピーポーと遠吠えをあげるモノはどうやら上にあるらしい。 俺は寝転がったまま、ぼんやりと天井を見上げた。 フレームイン。 ゆがむ視界に突如、白衣とヘルメットを装備した男が入り込んでくる。

救急車の中だった。

俺は、生きていた。 負けたのに。 しばし呆然とする。 何が何だかわからない。 なぜ生きているんだ、なぜ救急車の中なのか。 わからない。 脳裏に甦るアイツの姿。 ブローニング・キッド、そう名乗って発砲した少年の姿。

あの至近距離だ。 その筋のプロということを思えば、棒立ちになった俺をしとめ損ねるとは考えにくい。

ということは。

わざと……?  わざと生かしたのか、お前。 お前を殺しに行った俺を生かしたのか? 何だよ、ちくしょう。 わけわかんねぇ。

歯を食いしばって起き上がろうとしたら救急隊員に止められた。 一応、瀕死ではあるらしい。 大人しく倒れ直したとき、胸のホルスターに気がついた。 銃が入っている。 落としたはずのニューナンブが済ました顔で納まってやがる。 ますます混乱。

病院に着くと、緊急で手術室に回された。 麻酔を喰らって何が何だかわからないうちに手術が終わった。 その後のことは覚えていない。

目を覚まして、傷の痛みに驚いた。 痛みの中で考えるのは、やはりお前のこと。 なぜ生かした?  俺が死ねばお前はまた大手を振って外を歩けるようになる。 見逃したらまた追われるとは思わなかったのだろうか?  どうして銃を奪わなかった?  これだって立派な武器だ、趣味に合わないまでも無駄にはならないだろうに。

それにお前は疑っていたじゃないか、俺が警察の人間じゃないかと。 だったらなおさら。 拳銃を奪われた警官は厳しく処分されるんだぜ?  もしその奪われた拳銃が犯罪に使われでもしたら完全にアウトだったのに。 救急に通報したのもヤツだろう、それはもっと不思議だ。

俺をなめてるってことか?  それとも哀れんだのか?  それとも俺を誘っているのか?


『 来 レ ル モ ン ナ ラ、マ タ 来 テ ミ ナ ヨ ! 』


ちくしょう。 何だよ、お前。 カッコイイじゃねぇか。

夜が明けた。

朝が来た。

病室が青白い光に満たされた頃、看護師が俺のMDプレーヤーを届けてくれた。 戦いに行くまで聞いていたあのMDが入ったまま。 なんとなく気が向いて、イヤホンを耳に押し込んでみる。

死んでるようにダラダラ生きるより
生き急いで早死にした方がまし
醒めた時代を呼び起こすために
俺たち 生まれて きたはずだから

いつでも モラルを 狂わせたいぜ
イジけた HEARTは 忘れよう
立ち止まったら 流されるぜ
ブッ飛ばして たどりつけるまで
Come On!  Come On!
Come On!  Come On!

聞いていたら、お前の顔が浮かんだ。 アッシュグレイ・ヘアー、強気な瞳、青い緑と一陣の風。 お前の耳たぶを飾っていた濃紺の光が俺を捕らえて離さない。

BABY,you touched me.

俺に触れたブローニング・ベビー。

そこで気がついた。

ああ、 この曲は、 俺より君に似合う気がする ――……。

Fin.

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Thanks for your request! お題は「ROCK ME」(c)ハウンド・ドッグでした。
途中で引用した歌詞もこの曲のものです。歌詞全体が限りなくキッドっぽくてびっくり。
koraiさんに捧げます。


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