Color of vain

ツマラナイご依頼だった。

大企業での人事の話。 たった1つ空いた重役のイスをめぐり、あっちとこっちの権力バトル。 標的はライバル。 どうしても邪魔な競争相手をこっそり消してと暗殺依頼。 ああ、なんてありがちな話。

どうもおかしな雰囲気だった。 妙に気になるかすかなニオイ、それは違和感。 依頼人はオジサマだ。 善人面だが冷酷そうで衣装は仕立てのいいスーツ。 見え隠れするのは強い自尊心? それは典型的な「やり手の上司」タイプの人物だった。


『 TVドラマに出てくるような 』


そんな印象。 緊張を隠した横顔さえも、まるで、絵に描いたように。 オーソドックス。 自然すぎる「依頼人」ぶり。

密会の場所は街角の画廊だ。 狭い階段の先にある、ごくごく小さな2階のお店。 ちなみに1Fには全国チェーンのコーヒーショップが入っている。

柔らかな光があふれる画廊の中に客の姿はない。 いるのはキッドたちだけだ。 この画廊、今日は午後からオープンだとか。今は午前11時。 画廊のオーナーは室内にいる。中年の女性。実は依頼人の妻なのだそうだ。 つまり、ここは安全な場所。 誰かに邪魔されることなく、依頼の話ができる場所。

キッドと依頼人は奥の壁際に立っていた。 目の前には油絵の少女。 2人の密会は手短に終わった。 ターゲットの写真や資料を渡して、「頼む」と一言。それでおしまい。 依頼人は立ち去り、キッドはその場に残る。

キッドは壁の方を向いたまま、依頼人が去った方向にチラリと目だけを動かした。 いかにもありそうなご依頼とあまりにソレっぽい依頼人。 教科書どおり、お手本のよう。 あまりにもパターンどおりの1シーン。 かえって作為的なものを感じて、キッドはハンと軽く笑った。 もしこれがお芝居なら、鼻で笑っちゃうほどチープな脚本。

キッドの背後では画廊の女主人がさっそく入り口の鍵を開けていた。 依頼の話を終えたから、早めに店を開けるのだろう。 オープンするとすぐに数人の客がやってきた。 画廊としては小さいわりになかなか流行っているらしい。

チラリと客たちに視線をやったキッドは危うく吹き出してしまうところだった。 上品そうなご婦人方の群れによく知った顔を見つけたからだ。 なんて愉快で、不愉快な展開だろう。 キッドは肩をすくめてそう考えた。

絵に描いたような始まりのシーン。 誰が書いたか知らないが、嫌味なまでによくできた話。


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