Color of vain

※ caution!! ※
この先には、暴力表現・残虐表現が含まれています。
血や大怪我が苦手な方はご注意を!
また、暴力表現のため、R−15指定になります。
身体か心の年齢が十五歳以下の方は見ちゃダメ。

パーンッッ!


乾いた爆発音。 建物が揺れる。


パンッ! バーン、バン!!


轟音は立て続けに響いた。 画廊の中は騒然、大混乱だ。 一般人らしき客たちは、皆、あわてふためき悲鳴を上げている。

画廊の女主人が一枚の絵に駆け寄った。 焦った手つきで絵を外す。 絵の下からは窓が現れた。 女主人は両手を眉の上にかざして窓の外をのぞいている。 その表情はひどく切羽の詰まった、ギリギリの色。 1人、余裕の表情を浮かべるのはキッドだけ。

「どういうこと……?」

思わずといった様子で女がつぶやく。

にやり。

今度はキッドが笑う番だ。

事は10日ほど前にさかのぼる。 暗殺の依頼を受けたキッドは、依頼人について下調べをしていた。 冒頭で会っていた男がその依頼人だ。 調べている最中、キッドは妙な違和感を感じた。 確かすぎる。 身元も、動機も、依頼ルートも、報酬の支払い方も。 ここまで一点の曇りもない依頼人はかえって珍しかった。 たいがいの場合、どこかここか怪しいところがあるものだ。 嫌なニオイをかいだ気がした。 計略のニオイ。

そこでキッドは、尽くせる限りの技と人脈を駆使しまくって依頼人を調べ上げた。 その結果出てきたものは、謎。 裏に誰かがいるようだという噂だけは見つけたものの、その裏が誰だかわからない。 どうしようもないほど完璧に、『裏』とやらについての情報がみつからないのだ。

この状況、身に覚えがあった。 過去に1人だけ、同じように正体がわからなかった女がいた。 本名不明の紅いひとマドモアゼル・ルージュ。 まさに今、キッドと対峙している曲者的な女である。

「アンタのこと調べたときと似た感じがしたからー」

呆然とする女の前で、キッドが口を開く。

「なーんかそうじゃないっかなーと思って、昨日のうちに準備してたんだー♪」

クイッと唇の端をつり上げた、その口調の楽しそうなこと。 女の耳が赤く染まった。たぶん怒りのために。 キッドがここまで派手な手段に出たのには理由があった。 人を集めたかったのだ。 群集を。

女がキッドを呼び出す狙いは? どうせまた命を狙うつもりか、さもなくば勧誘が目当てだろう。 前者の場合は、まあ、いい。 バチバチのバトルに挑むのなんていつものことだ。 気になるは後者。 勧誘目当ての接触なら女本人が直接出てくる可能性も高い。

決着をつけたかった。

もし会えるのならば、ご自慢の愛銃でこの因縁を断ち切ってやりたい。 直接女と顔を合わせておきながら、みすみす取り逃がしてしまうこと。 それが1番イヤだ。 目の前に現れるかもしれない女の退路を経つ手段が欲しい。

そう考えたとき、騒ぎを起こすことを思いついた。 分厚い人垣によって、物理的に逃げ道を閉ざしてしまうのだ。 通路や非常口を探してふさぐ方法は手間がかかるから1人でこなすのは大変だろう。 けれど、騒ぎを起こす方法ならば簡単。 自分はきっかけを作ればいい。あとは野次馬の皆さんが勝手に退路をふさいでくれる。

また、惜しくも取り逃がしてしまったときのことも考えておきたかった。 女に関する情報が極端に少ないのは女の顔が知れ渡っていないせい。 少しでも情報が増えるように、いっそ女を有名にしてしまいたい。 騒ぎで人々の注目を集めておけば、女の姿をたくさんの人間が目撃してくれるはず。 万が一逃げられてしまったとしても女が有名にさえなればいい。 女の顔を知る人間が増えれば、手に入る情報量は確実に増える。

そう考えたキッドはさっそく爆弾を手に入れた。 携帯電話の電波を使って遠隔操作できる品だ。 仕掛けたのはキッドではなく知り合いの運び屋さん。 キッド自身は約束の日までなるべく画廊に近づかずに過ごした。 依頼人やその後ろにいるかもしれない 紅いひとマドモアゼル・ルージュに、 この計略がバレないように。

……そして、女は現れた。 キッドに罠を仕掛けたつもりで、キッドが張った罠の中へ。


ドンッッ!


一際大きな爆発が起こる。爆弾はこれで最後のはずだ。

サイレンの音。 もうすぐ消防や救急が駆けつけるのだろう。 建物の外から大勢のざわめきが聞こえてくる。 キッドの位置からでは外の様子を見ることはできない。 だが、予想はできる。 閉ざされた画廊まで声が届くということは、かなりの人数が集まっているのだろう。 作戦はどうやら大当たりのようだ。 一般人を巻き込んでしまったことは心苦しいけれど、この際、仕方がなかったことにしよう。

真っ青にスーツを身にまとい、青ざめるのは紅い女。 女は動かない。

動かないのではなく、動けないのだろう。 すでに女が逃げ去るには不利な状況だ。 誰の目にも止まらず逃げることはまず不可能。 唯一の出入り口には画廊内の客数人が殺到している。 女主人が外をのぞいていた窓から飛び降りるというのも女にとっては難しそうだ。

そもそも女にしてみれば、どこに爆弾があるのかわからない状況。 ここにいるのも危険だが、逃げている途中でドカンとやられる可能性を思えばこの場を離れることもキツいはず。

「まいってくれたぁ?」

キッドはゆっくりと女に近づく。 女の右手がじわじわと膝の方に動いた。

バッ、と。

女が自らのスカートをめくる。 太ももにはセクシー&デンジャーなアクセサリーが隠れていた。 それは小型の拳銃、ワルサーPPK。

だが、遅い。 女のスカートがめくれたのとほぼ同時に、キッドの右ポケットから銃を握った手が飛び出した。 引き金を引く。 タンッと軽い音が鳴る。 鋭い悲鳴を上げて女が右手を押さえた。 白い指の間からあふれ出すのは、血。 女は一気に立ち上がり、ドアへと走ろうとした。

次の瞬間、再び銃声が鳴った。 女の右足首に穴が開く。 ヴッと低い声を漏らして倒れる女。 女を見つめながら、キッドはいつになく非情な表情だ。 1歩、2歩。 追い詰めるように女へと近づく。 女はキッと目を吊り上げて叫んだ。

「やめろ、動くな! 動けば命はない、お前じゃなくて小娘の方!」

手にはいつの間に拾ったのか、通信機が握られている。

キッドの足が止まった。 そう。 まだキッドの方が不利なのだ。 失いたくないものがあるから、いまいち強く出られない。 ユキのことがなければとっくに女をしとめていた。 女が死ねば、ユキを見張っている女の部下がキレてユキを襲うかも。 そう思ったせいでキッドは女をしとめられずにいた。

「よくもこんなことをして……思い知れ!」

女が怒声とともに通信機のボタンを押す。 キッドの顔に一瞬、緊張が走った。 しかし。 反応はなかった。 女は焦った表情で何度もボタンを押す。 しまいにはキッドに向けていた視線を通信機にずらしてまでボタンを押し続ける。 少しして、通信機から音声が流れてきた。

『た、大変です、今、今、目標が別の何者かに……連れ去られ……!』

男の声だ。 走っているのか、走った後なのか、すっかり息が上がっている。

「???!」

女が驚愕の表情を浮かべた。 同時にキッドが安堵のため息を漏らす。

「だから甘いしー」

キッドの声に女がガッと視線を戻した。 キッドと女、2人の目が合う。

「意味もないのに『見えたよ』とか言うわけねーじゃん。 ユキならオレの……仲間?……が、守ってくれてるはずだから!」

仲間という言葉を若干疑問系に発音しながらも、キッドは自信ありげに微笑んだ。

女がユキの姿を映し、「どう? 見えたの?」と聞いてきたとき。 キッドはわざと声を大きくして状況を伝えていた。 伝えて、いたのだ。 無駄に「見えた」と答えていたわけではなかった。 実は、キッドの襟の裏には小型マイクが仕込んであった。 緊急事態に備えた連絡用のマイクが。

マイクの向こうでキッドのセリフに聞き耳を立てていたのは圭介という男だ。 圭介はキッドと仲のよい情報屋。 特にキッド専属というわけではないので仲間と断言できるかは怪しい。 でも、今回は敵ではないということだけは確かな人物だ。

事態を把握した圭介は迅速に動いてくれていた。 キッドが女とのやりとりで時間を稼いでいる間に、ある人物に連絡を取ったのだ。 その人物とはこれまたキッドと仲のよい運び屋の老人で、通称ハコ屋の爺さん。 圭介は爺さんに対し、キッドの恋人を安全な場所に運んでやってくれと頼んだ。 そして今、爺さんは確かな腕前を発揮し、さっそくユキをかっさらってくれたわけだ。 ちょっと、というか、ものすごく強引な救出劇。 端から見たら、拉致か誘拐でしかない光景だったろう。

ともかく、女の計画は何から何まで失敗に終わった。 よっぽどショックだったのだろう。 女は口を半分ほど開いた間抜けな表情で固まっている。

「ど、う、し、て………?」

切れ切れに問う女。 答えもせず、キッドは声を上げて笑う。

完全なる形勢逆転。 そのとき、ドアから外へと出かかった客が画廊の内側にふっ飛んできた。 かわりに飛び込んできたのは黒いスーツの男たち。

「……!!」

息を飲む女。 表情が輝いている。 客を突き飛ばして駆け込んできた者たちは女を見るや否や、口々に叫んだ。

「ご無事ですか!?」
「お怪我は!?」

客たちを突き飛ばして飛び込んできた黒スーツの数名は、どうやら女の部下らしい。 やれやれ、敵が増えてしまった。 小さく舌打ちするキッド。

(でも、ま、これでちょーどいいくらいじゃね? 本気で戦うには!)

騒ぎ出すアドレナリンにぞくぞくしつつ、キッドは思い切り床を蹴った。


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