Color of vain

※ caution!! ※
この先には、暴力表現・残虐表現が含まれています。
血や大怪我が苦手な方はご注意を!
また、暴力表現のため、R−15指定になります。
身体か心の年齢が15歳以下の方は見ちゃダメ。

まずは最初の1歩。 床を蹴ったキッドの身体は大きく後ろへジャンプした。 着地地点はさっき銃を捨てた場所だ。 床に横たわる銃を軽やかに蹴り上げ、速やかにキャッチ。 これでいつもの二挺拳銃スタイルになった。 素早く2挺を構え、増えたばかりの敵に向ける。

女を救いに来た部下らは全部で6名。 そのうち2人がいち早く銃を持ち、発砲してきた。 その弾丸を狙い撃つ。 キッドの銃口からかわいらしいサイズの弾丸が飛び出していった。 キッドの弾は部下らの弾に向かって真っ直ぐ近づき、空中でぶつかる。 双方が放った弾は互いに弾き合って軌道を変えた。 どちらも誰もいない空間へ飛んでいく。

弾が弾を撃ち落とすところなどもちろん肉眼では確認できない。 だから部下らは特に驚くこともなくキッドを狙い撃ち続けた。 キッドが無傷で立っているのは自分たちの弾がたまたま外れたからだと思っているのだろう。

しばし、そんな攻防が続いた。 相変わらずキッドは無傷だ。 とはいえ、楽な作業ではない。 相手は2人。しかも次々に撃ってくる。 さすがのキッドも手は抜けない。 女や他の部下たちが気にならないではないが、そっちまでは手が回らなかった。 そうこうするうちに女は部下らの影へ。 主を守れそうだという安心感からだろうか? 部下たちの攻撃が一瞬ゆるんだ。

絶好のチャンス。 キッドは、部下らの腕や体が作る隙間ごしに女を狙った。

撃つ。 狙いは正確、女のこめかみ。

だが。

「きゃっ!」

弾丸が当たる前に、女は景気よくスッ転んだ。 なんとも運の強い女だ。 転びさえしなければ、キッドの弾丸は間違いなく女の生命を摘み取っていたのに。

チッ、小さく舌打ち。 部下らが女を気にしたスキをついて、キッドは素早く2歩、左に移動した。 女がはいずってドアを出ようとしている。 撃ちたい。 けれど、部下と一般のお客さんが邪魔で狙うことができなかった。 女の部下である部下どもはともかく、民間人を撃ち殺すのはさすがにまずい。

キッドが手を止めているうちに部下らがまた発砲してきた。 今度は素早い移動でかわす。 かわしつつ、キッドは狙いを定めて左右同時に引き金を引いた。

1発は、今まさにキッドを撃とうとしていた1番右端の部下の首へ。 喉仏の真ん中にジャストミート。 右端の部下は銃を落としてその場に崩れた。

もう1発は女のすぐ前にいる部下の頭へ。 当たったのは鼻のすぐ上、軟骨の辺りだ。 女の前にいた部下は白目をむいてひっくり返った。

……女の上に。

「っ、あぁ!」

女が腹立たしそうな声を上げる。 あ゛ー!と言いたいのはキッドの方だ。 せっかく障害物を倒したと思ったのに、これでは女が狙えない。 まったく、死体になった後まで女を守るとは。

そうしているうちに、今度は残りの部下4人が女とキッドの間にしゃしゃり出てきた。

「あ゛ー! ジャマジャマジャマ!」

そのうちの1人を狙って、3発ほど撃ってやる。 弾丸は全て、相手の目の玉を撃ちぬいた。 撃たれた部下は声をあげ、両手で目を覆う。 だが、よろめいただけで倒れない。 逝って当然のケガなのになんてタフなヤツだろう。キッドは思わず目を丸くした。

ふと。 視界の端に真っ青なスーツが映る。 女だ。 もうすぐドアの外へと出るところ。 キッドの位置からはちょうど横っ腹の辺りが見えていた。 素早く撃とうとする。 が、さらに別の部下が1人入ってきたせいで女の姿が隠れてしまった。

チッ。

キッドの舌打ちと同時に目を撃ち抜かれた部下が倒れる。 もう5秒早く倒れてくれていたら、女を狙うチャンスはいくらでもあった。

「あ゛あ゛ー! もぉー!」

叫ぶキッド。イライラがつのる。 女はすでにドアの外へと逃げ出した様子だ。 しかたがない。 キッドは女をあきらめて、部下らに狙いを移すことにした。

ターゲット、ロックオン。 無事に残っている部下は総勢4名。 身構える部下たちに向かい、キッドはダッと駆け寄った。 キッドの意外な行動に4人の部下は焦った様子。 手に手に銃を構え、慌てて発砲してくる。

横っ飛びで素早く避け、キッドは壁の方へ寄る。 寄った先にはさっき女とキッドが眺めていたのとは別の絵が飾られていた。 大きい。 先ほどの少女像と同じタッチで描かれた若い女性の肖像だ。 あの絵画の少女と同じく、透けるように白い肌。 肌の奥にはうっすらと静脈が透けているようにも見える。 クラシックなムードの肖像画は分厚い額縁に囲まれていた。 たぶんこれもルノワールの作品なのだろう、ただしレプリカの。

壁まであと80cmほどに近づいたところでキッドの身体が大きく跳ねた。 地面を蹴ったのは左足。 より高く上がった右足が額縁の下辺を蹴る。 いくら分厚い額縁だと言ってもでっぱった部分の奥行きは2〜3cm程度。 そのわずかなでっぱりを足場に、細身の身体が天井近くまで飛び上がった。

キッドの身体を追うように部下たちが銃声を鳴らすが、全く当たらない。 部下らの反応よりキッドの動きの方が少しだけ速いのだ。

飛びながら、キッドの左足が絵画の人物を強く蹴りつけた。 靴底の下で白い頬がザリッと悲鳴を上げる。

そのキックの力でキッドは器用に前回転。 くるり、空中で体をひねる。 サーカスのような軽業。 軽やかに宙を舞う姿はまるで香港映画の1シーン。 空中で回りながらキッドは引き金を引いた。 両手同時に1度ずつ、合計2発の弾丸が発射される。

弾丸はそれぞれ別の部下に当たった。 あたった場所は2人とも眉間だ。 このとき、キッドと部下らの距離はほんの1.5mほどに縮まっていた。 近距離から額に垂直のヒット。 比較的威力が弱いキッドの弾丸もこの距離ならさすがに頭蓋骨を貫く。 当然ながら2人は脳のど真ん中を撃ち抜かれ、あっさりと倒れた。 ゴロリと転がる2人の身体。 まだかすかに痙攣している。

ひらり、キッドは軽やかに着地した。 これで残りは2人。 キッドの視線は油断なく、残りの部下らに向けられている。 残った者たちの反応は好対照だ。 1人は果敢にも銃を構え、キッドに狙いを定めようとした。 もう1人はキッドに背を向けて逃げの体勢に入っている。

キッドの両手で次々とブローニング・ベビーが火を噴いた。 銃声は2回。 ほとんど重なり合っている、けれど、微妙にずれた響き。

銃を構えた方の部下の頭がドンッと揺れた。 穴が開いたのは額だ。 またしても眉間のど真ん中。 穴の数は1つ。 飛んでいった弾丸は2発。 2つの弾は全く同じ場所にヒットしたわけだ。 さっきの2人の場合、凶弾は頭蓋骨の中に留まっていたが、今度は後頭部をつき抜けた。

後ろの空間に弾丸と血や脳の一部をぶちまいて、勇敢なる敵が倒れる。 キッドは二挺の銃口をフッと吹き冷ましてからポケットに押し込んだ。 逃げ去る方は無視だ。 すっかり邪魔者がいなくなった空間の先にあるドアが見たが、もちろん女の姿はない。

キッドはキョロキョロと床に目を走らせた。 見つけたのは落ちていた小型の端末だ。 拾い上げ、画面をのぞく。 誰もいない街角の風景が映っているだけだった。

パトカーのサイレンが聞こえる。 店内には失神した客が転がっていた。 目を開いている者も異常な事態にわけがわからなくなっている様子だ。

出入り口の方が騒がしい。 画廊へと続く階段を誰かが登ってきているようだった。

端末を投げ捨て、キッドは窓に駆け寄った。 外を眺めると、窓の下に軽自動車が止まっているのが見える。 ちょっと窓から離れてはいるが、これは好都合。 先ほどの爆発騒ぎでフロントガラスが割れているようだが気ニシナイ気ニシナイ。 用があるのは屋根だけだ。

上着の前を閉める。 バッグの中から大判のハンカチを出して、申し訳程度に顔を隠す。 ついでにショルダーバッグを上着の中に通した。 これで完全防備。 それから銃を1挺取り出して、画廊と外を隔てる窓に向けた。

1発。

ガラスはあっさり貫かれる。穴が開いたことで割れやすくなったはずだ。 キッドは窓から5歩ほど後ろに下がった。

ドアの向こうから声が聞こえる。

「大丈夫か!! 誰かいますか!?」

声の主は警察か消防の人だろうか。 まだキッドから見える位置には来ていない。 キッドは窓の向こうを見据えると、ハンカチの下でニッと笑った。

さぁ、助走をつけて。

窓に向かって勢いよくジャンプする。 キッドの身体は窓を蹴破り、外へと飛び出した。 野次馬たちのどよめきの中で。 きらめくガラスの破片を振りまきながら。

キッドは軽自動車の屋根にドカンと着地した。 屋根がべっこりとへこむ。持ち主さんにはゴメンなさい、だ。 だが、そのクッション効果でキッドの膝は快適そのもの。 まったく勢いを落とすことなく屋根を飛び降り、野次馬の中に飛び込む。 目撃されまくりだが、まぁ、いいだろう。 どうせ裏の世界や警察上層部には知れ渡った顔だ。 すでに有名になってしまっているキッド、いまさら顔バレなど恐くはない。

だが、逃げた女はどうだろう? あの紅い女は。 人々に顔を目撃されていればラッキーなのだが。 うまく目撃情報が拾えればあの女に一泡吹かせてやれるかもしれない。 キッドは人垣を無理やりかき分けながら、襟の隠しマイクに声をかけた。


BACK   NEXT / EXIT  TOP



inserted by FC2 system